874森岡孝二著『過労死は何を告発しているか――現代日本の企業と労働――』

書誌情報:岩波現代文庫(S262),338頁,本体価格1,240円,2013年8月20日発行

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居酒屋チェーン「日本海庄や」の男性店員過労死訴訟の上告審で,経営会社「大庄」の上告を退ける判決があった(24日付)。店員(当時24歳)が2007年に死亡したのは過労によるものと認定し,大庄側に約7,860万円の支払いを命じた一審と二審の判決が確定した。本書第6章「多発する若者の過労自殺と大学生の就活自殺」で外食産業の異常な長時間労働の例として扱われている。心臓性突然死で倒れる直前一ヶ月前102時間,二ヶ月前115時間,三ヶ月前141時間の時間外労働(残業)だったこと,給与体系のなかに残業代を組み込んでいたことを原告側の資料で告発している。
さらに,厚労省経産省裁量労働制の緩和を進め全国一律での導入拡大を検討しているとの報道もあった(日経9月27日付)。企業で業務の企画・立案,調査などを担う社員に幅広く適用できるように対象を広げ,手続も簡素化するという。個人のワークバランスの改善に資するというのが謳い文句である。1987年以降の裁量労働制の導入と拡大は,当初の5業務(新商品・新技術の研究開発やメディアの取材・編集などの「企業業務型裁量労働制」)から2006年には大学における研究教育業務も加えられ現在は19業務になっている。本書にある「雇用・労働分野の規制緩和を推進し,労働時間の非標準化と多様化を図ろうとする流れ」(64ページ)そのものである。
この二例にあるように,「労働時間の規制と短縮を行い,企業中心社会から脱却を図ろうとする流れ」(同上)を本流にすべく,旧著『企業中心社会の時間構造――生活摩擦の経済学――』(青木書店,1995年)をもとに全面的に書き改めたのが本書である。総務省労働力調査」と厚労省「毎月勤労統計調査」とでは一人当たり年間300時間以上の差があること(前者>後者)を最初に指摘したのは著者だった。
働く時間を柔軟に設定できるという美名のもと裁量労働制の拡大にみられる労働時間規制の見直しの前にすべきことがある。労働基準法の法定労働時間(一週間40時間,一日8時間を超えて労働させてはならない)を遵守し,週休二日,年次有給休暇20日国民の祝日15日を取得すると,年間労働日数は226日,年間労働時間1808時間となることを思いだそう。
「労働者がたとえ「自発的」に長時間労働して疲労を蓄積させ心身の健康を害したとしても,それは労働者の自己責任ではなく,労働者の業務が過重なものとなって心身の健康を損なうことがないよう,適正な労働条件を確保する義務を負っていながら,その義務を怠った企業の責任」(222ページ)なのだ。本書で紹介されている過酷な労働実態からは裁量労働制の拡大はだれのためのものなのかがはっきりわかる。