523河口マーン恵美著『ベルリン物語――都市の記憶をたどる――』

書誌情報:平凡社新書(519),261頁,本体価格780円,2010年4月15日発行

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1989年のベルリンの壁崩壊によってドイツは二度目の統一をはたす。一度目はドイツ帝国として35の領邦と4つの自由都市をひとつにした。本書は,都市ベルリンに焦点をあて,ビスマルクによる統一から冷戦崩壊による統一までの時間軸を辿る歴史紀行だ。
ドイツ帝国の時代,ワイマール共和国の時代,第3帝国の時代,冷戦の時代をくぐり抜けたドイツ。ダイムラーソニーによってポツダム広場の一角は開発されたが,この空間は40年間無人地帯だった。東ドイツ時代に「共和国パレス」という巨大ホールがあった。旧ベルリン宮殿の跡地に建てられていた。東西ドイツ統一後このパレスは閉鎖された。なんとヨーロッパでもっともアスベストに汚染されていたからだ。21世紀になってからようやく除去工事が終わり,数年前取り壊された。2015年,ここにベルリン宮殿が復元されるそうだ。
よく知られた言葉――「会議は躍る,されど進まず」,「船長は沈没に向かって舵を切る」,「フランスを昼食に,ロシアを夕食に」,「子猫と子犬さえも処女じゃない」,「生きるには少なすぎるが,死ぬには多すぎる」,「世界で一番優れた安全システム」,「すべての上に君臨するドイツ」などなど――を散りばめ,史実にベルリンを浮かび上がらせた筆致は冴えている。さすが何冊かドイツ本を出しているだけのことはある。
「近代史のあらゆる出来事を体験し,栄え,滅び,そして再生した町」(259ページ)ベルリン。まもなくドイツは東西ドイツ統一(1990年10月3日)から20年をむかえる。その20年前までのドイツとベルリンをおさらいしてみるのに恰好の新書だ。