449伸井太一著『ニセドイツ1・2』

書誌情報:社会評論社,159頁・159頁,本体価格1,900円・1,900円,2009年11月9日発行

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1949年10月7日から1989年11月9日(1990年10月3日ドイツ統一)まで存在した東ドイツの工業製品・都市と生活用品・政治・文化を紹介している。タイトルといい「共産趣味インターナショナル」シリーズといい,東ドイツをこけにしているようだが,「ドイツ研究と情報エンターテインメントの架橋」を企図した本格的なカタログ式読み物だ。
1998年にドイツ(フランクフルト,ベルリン,ドレスデンライプツィヒミュンヘン)に行った時,本書にもあるトラビこと「共産主義車」トラバントはまだ現役で走っていたし,これまた本書に出てくるマルクス像もいたるところに残っていた。ホーネッカーの「本音っかぁ」,「思想・農労を防止する」歯みがき粉のように,評者にとうてい及ばないおやじギャグを散りばめ,東ドイツ製品を縦横に語っている。貧富の差をなくし平等を目指したとされる東ドイツというひとつの政治体制を,工業製品と生活用品から分析した面白本である。東ドイツそのものが「もの」に表れていたことがわかる。
映画『グッバイ・レーニン GOOD BYE LENIN!』はオスタルギー (Ostalgie)――ドイツ語の東 Ost と同じくノスタルジー Nostalgie の合成語――の名作だった。サブカル的要素をふんだんに織り込んだ著者のオスタルギーも並ではないとみた。
タイトルの「ニセ」には東ドイツ製品=贋・偽という意味を含んでいない。「贋と言われたくがないための似せ」タイトルである。
なお,本書2冊とも「第刷」とあり,「1」が抜けている。ニセ刷である。