372加藤哲郎著『ワイマール期ベルリンの日本人――洋行知識人の反帝ネットワーク――』

書誌情報:岩波書店,x+318+40頁,本体価格5,000円,2008年10月15日発行

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本書の中心人物は国崎定洞(くにざき・ていどう)である。国崎は,蝋山政道のドイツ留学をきっかけに始まった読書会兼親睦会,国際反帝同盟と結びついた在独日本人反帝グループの中心メンバーだった。前者には有澤廣巳,堀江邑一,千田是也,鈴木東民,山田勝次郎,土屋喬雄,平野義太郎,蜷川虎三らが,後者には千田,勝本清一郎,島崎蓊助(おうすけ。島崎藤村の三男),藤森成吉,小林陽之助,根本辰らが加わった。
著者はすでに国崎が亡命先のモスクワでスパイ容疑で銃殺されたこと(1937年12月10日)を明らかにしていた(川上武・加藤『人間 国崎定洞』勁草書房,1995年11月,isbn:9784326750436,加藤『モスクワで粛清された日本人』青木書店,1994年6月,isbn:9784250940163,加藤『国境を越えるユートピア平凡社,2002年9月,isbn:9784582764444)。著者が入手した旧ソ連秘密資料「国崎定洞ファイル」によって,「獄死」ではなく,山本懸三の密告による「日本帝国主義のスパイ」容疑の粛清だったことが判明したのだった。
本書では,ナチス政権にとってかわれたワイマール期ベルリンにおける日本人知識人たちのネットワークが詳述されている。ここには,日本人コミュニティと研究会・反帝グループの活動,日本を含むアジア・ベルリン・モスクワの共産主義運動とコミンテルンの対応など,1920年代から30年代にかけての貴重な現代史がある。帝国主義戦争に無力だったし,スターリンコミンテルンへの批判にもなりえなかったとはいえ,彼らのワイマール体験は貴重なものだ。
著者の編集者時代の東ドイツ留学(1972年〜73年)が「当時準備されていたマルクスエンゲルスの新しい全集(新MEGA)の日本人担当者の育成」(「あとがき」289ページ)だったとは,知らなかった。