371外山滋比古著『新エディターシップ』

書誌情報:みすず書房,185頁,本体価格2,600円,2009年5月15日発行

新エディターシップ

新エディターシップ

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旧版は1975年である。一部を差し替えたものの,狭義の編集とは別に,人間活動の根幹に編集の精神や理念(エディターシップ)があることを発見した秀作である。
人間は,記憶や認識の際に対象の重要な部分を切り取る。意識される現実は現実世界そのものではなく「ごく一部の認識によるアンソロジー的世界」(51ページ)である。「われわれはひとり残らず編集を意識しない編集者」(同上)・「生まれながらにして無自覚のエディター」(74ページ)というわけだ。
「流行とはエディターシップが臨時につくり出す価値の現象と体系」(75ページ)・「ジャーナリズムは屈折した宗教であり,エディターはその変形宗教の司祭」(159ページ)との指摘は,いわゆる編集なるものがエディターシップのごく一部としてある限界をいうものであろう。
もちろん人間がすべてこのエディターシップを持つとはいえ,それを発揮するには「利害と関心の力学から離脱」(77ページ)が必要だ。「無私,無我,解脱などの境地」(78ページ)がその条件だとすると,著者のエディターシップ論はやや観念の世界に入りこまざるをえない。
一箇所だけ「黒子」に「くろご」と振っているのと強調符としての「、」が数カ所あるが,振仮名も注もないさわやかなエッセイ集である。
そういえば,人間と文化のタイプを,動物性タイプと動詞的文化,植物性タイプと名詞的文化に分けて論じた部分があった(「変化の論理」)。肉食と草食との分け方ではないが,著者は35年ほど前に着眼していたことになる。