153森岡孝二編『格差社会の構造――グローバル資本主義の断層――』

書誌情報:桜井書店,333頁,本体価格2,700円,2007年9月28日

格差社会の構造―グローバル資本主義の断層

格差社会の構造―グローバル資本主義の断層

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格差社会を論じる書物や論文は数多い。政権与党からも――程度の差があっても――格差是正の声があがるようになった。本書はグローバリゼーションをいまひとつのキーワードに現代社会を読み解く試みである。
類書と異なる最大の特徴は,編者以外の執筆者が働きつつ研究してきた労働者研究者であることにある。しかも編者をのぞく執筆者7名中6名はおおよそ30年にわたって530回以上にわたってゼミを続けてきた。本書は『勤労者の日本経済論――構造転換と中小企業――』(法律文化社,1986年,asin:4589012855)および『現代日本の企業と社会――人権ルールの確立を目指して――』(同上,1994年,asin:4589017792)に続く研究成果だ。現在,社会人大学院と社会人大学院生とはごく普通の存在である。著者たちは社会人大学院が制度化される前から働きつつ研究し,専門論文を書いてきたことになる。
労働者ゆえに現場を知っているとはかならずしも言えないにしても,現場の一端を知る強みは分担した各章に生かされているように思う。製造業における派遣・請負,アメリカのスタッフィング・サービス業,労働基準,家計の資産格差と生活格差,税制改革,ユニクロ経営,多国籍種苗企業というように,分野を網羅はしていない。しかし,グローバル資本主義の展開にともなって生じているいくつかの「断層」を抉りだしている。