747森岡孝二編『貧困社会ニッポンの断層』

書誌情報:桜井書店,286頁,本体価格2,700円,2012年4月5日発行

貧困社会ニッポンの断層

貧困社会ニッポンの断層

  • メディア: 単行本

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今では社会人が大学院で学ぶことは普通のことになった。40年ほど前,働きながら学び,講座やゼミナールを受講し,論文を完成させることを目指した民間研究所があった。基礎経済科学研究所(基礎研)である。本書の執筆者の大部分は基礎研夜間通信研究科の社会人ゼミナールのメンバーである。隔週開催で600回を超える研究会を重ねてきたというから,まさに継続は力なりである。
労働者研究者の強みは彼らの労働現場にあり,そろぞれ熟知していることにある。人材派遣(第2章),パートタイム労働(第3章),法人実効税率引き下げ(第4章),中小企業(第5章),住宅ローン(第6章),生活保護(第7章),労働CSR(第8章)といった自らが働く(働いてきた)現場で見聞し経験したことをもとに問題解決の道筋をつけようという社会科学の実践報告でもある。
すでに『格差社会の構造』(関連エントリー参照)を上梓しており,本書は貧困問題のいくつかの断層と通底する部分に焦点をあわせた共同研究の成果物である。
化学会社,税理士,繊維会社,不動産鑑定士,施設管理会社などで働きつつ,学んできた一里程標が本書であることの重さを感じている。もちろんこうした出版物としての評価はそれぞれの分析の説得性にあり,まずは底抜けの貧困社会の断層を発見できているかにある。