079日本経済新聞社編『人口が変える世界――21世紀の紛争地図を読み解く――』

書誌情報:日本経済新聞社,229頁,本体価格1,500円,2006年12月1日

  • -

国立社会保障・人口問題研究所のウェブ(http://www.ipss.go.jp/)を開くと,右側に「人口ピラミッドの推移(1930年〜2055年)」のイメージ画像がある。日本の人口はピラミッド型(富士山型)から「つぼ型」に変化することがよくわかる。ちなみに,中国は25歳以下が際立って少ない「キノコ型」である。同研究所では最新の人口推計「日本の都道府県別将来推計人口」(平成19年5月推計)を発表した。これも同ウェブで公開されている。
本書は政治,経済,国際関係などの根底には人口問題があるとの問題意識から出発した新聞連載記事をもとにしたものである。テロの頻発,核拡散の深刻化,環境の悪化,民族・宗教対立などを読み解くひとつの鍵が人口問題とする。たしかに,人口問題がそれ自体として直接的な動因になるわけではないが,人口増加と人口減少が併存する世界のみならず,国境を越えた人の移動をともない複雑な構図といえる。経済学では労働者の貧困の原因が人口増加の自然法則にあるとするマルサスの絶対的過剰人口論やそれを批判し資本蓄積との関係で論じたマルクスの相対的過剰人口論が有名だ。マクロ経済学でも経済成長率と人口成長率は重要な要因だ。
人口を論じれば論じるほど個人の生き方やセックス観,ひいては家族政策に行きつく。また,市場という経済活動の根幹に関わってもくる。本書で叙述されたように,人口のもたらす影響がこれほど大きい。個人と国家との緊張関係があらためて浮かび上がってくるだろう。