669森岡孝二著『就職とは何か――〈まともな働き方〉の条件――』

書誌情報:岩波新書(1338),xii+217+4頁,本体価格760円,2011年11月18日発行

  • -

就活本は企業にいかに気に入ってもらうかの観点からのものが多い。企業の現状を前提にした議論は「新氷河期」の学生をやたら悲観させてもいる。学生の就職問題は雇用の現場と直結しているはずだ。その視点から就職を再考し,〈まともな働き方〉を提唱する本書は多くの類書のなかでも〈まともな〉一冊である。就活と働き方を同時に論じている本書は,多くの著書を通じて現代日本経済を分析してきた冷静な視点と株主訴訟や過労死に率先して取り組んできた熱い思いとを結晶させている。
就活編の描写は生々しい。就活うつと就活自殺が増える一方で,就活ビジネスが栄える日本の現状は波状的リストラが極限まで進んだ結果である。若年者の高い失業率は,彼らが打たれ弱いからではなく,企業の違法性や労働条件の過酷さにある。内定率の低さやルールなき新卒採用の実態は企業社会の病理と一体のものであろう。
働き方にかかわっては,雇用を「賃金や労働時間が法定の基準を満たし,働く権利が保障され,安定していて,健康保険,雇用保険労災保険などの社会的保護が与えられているもとで,労働者が使用者の指揮命令下で働き,その対価として賃金を受け取る関係」と整理し(92ページ),見かけの時短が進んだものの正社員の働き過ぎは変わっていない。さらに,パートタイム労働が増えることにしたがって一般社員を正社員と呼ぶことになった歴史は知っていていい。
著者の〈まともな働き方〉はILOの decent work から採られている。「まともな労働時間」「まともな賃金」「まともな雇用」「まともな社会保障」などがその内容となる。超長時間労働者(男性正社員中心)と短時間労働者(産業予備軍や女性パートタイム労働者が中心)のあいだで仕事を分かち合う「サービス残業解消型のワークシェアリング」を解決の糸口としながら,政治と政府の課題を明確にしている。
企業社会にいかに適応するかだけでなく,社会常識と労働知識を身に付けた〈まともな〉学生を育てる意義をあらためて教えてもらった。
日経新聞「傍聴席」に著者の過労死防止基本法策定の取組が紹介されていた(2011年11月28日付)。下に縮小して貼り付けておく。