671ジュリエット・B・ショア著(森岡孝二監訳)『プレニテュード――新しい〈豊かさ〉の経済学――』

書誌情報:岩波書店,xiv+180+49頁,本体価格2,000円,2011年11月29日発行

プレニテュード――新しい〈豊かさ〉の経済学

プレニテュード――新しい〈豊かさ〉の経済学

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著者の前訳著『浪費するアメリカ人――なぜ要らないものまで欲しがるか――』は単行本から文庫になったし(森岡監訳,岩波現代文庫[isbn:9784006032142]),『働きすぎのアメリカ人――予期せぬ余暇の減少――』(森岡他訳,窓社,[isbn:9784943983682])は繁栄の裏で進む過酷な労働に焦点を当てた。
本書はこれからの「豊かさ」を追求する「経済的オルタナティブ」を展開したものだ。われわれ日本人にはなじみが薄い「プレニテュード plenitude」――「豊かさ」を意味する言葉――とは,消費人類学者グラント・マクラケンが使用し,情報技術論者リッチ・ゴールドが遺著のタイトルにしたという。著者の考える「豊かさ」の原理は「労働と消費を減らし,創造と絆を増やす」(6ページ)ことである。労働時間減・自由時間増,高い生産性に支えられた自給,持続可能な暮らし方(低コスト・低負荷で高満足な消費生活),コミュニティへの投資回復(地域社会と社会的な繋がりの再活性化)をそれらの内容とすることで,温暖化ガス排出量と環境の悪化を減らす「エコロジー的利益」と,楽しみと健康を増やす「人間的利益」を実現しようというシナリオを提示している。
アメリカを中心に浪費がもたらす環境悪化とそれを主題化できない主流派経済学批判を前半で,労働時間短縮とサステナビリティ実現の鍵としての知識を分析して「豊かさ」の実現を後半で,それぞれ具体的に論じている。
「時間を取り戻す,スキルを高める,人に投資する,もっと節約する,自給の技法を作り上げる時が来た」(94ページ)。「経済システムの危機」と「生態系の危機」という「複合的危機に立ち向かう新しい〈豊かさ〉の経済学からの有力なパラダイムの提示」(森岡,179ページ)は,われわれの生活現場と直結していることを教えている。
南アでの COP17 の錯綜をみるにつけ,「グローバルな展望は,国家的な展望に勝る」(160ページ)ことはまちがいない。本書を繙く意味は大きい。