551リチャード・N・カッツ編(梶田将司訳)『ウェブポータルを活用した大学改革――経営と情報の連携――』

書誌情報:東京電機大学出版局,xlvi+211+xv頁,本体価格3,300円,2010年3月30日発行

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インターネット草創期においては,検索エンジンへの信頼と利用は現在ほど厚くもなく多くなかった。ある特定の興味・関心に関する情報へのリンクをまとめたポータルサイトと言われるウェブが大きな役割を果たしていた。評者の AKAMAC Home Page は社会科学の E-text に的を絞ったポータルサイトとしてそれなりに評価されたことがある(左の「リンク集」参照)。もちろん,ポータルサイトは現在でもインターネット上の情報・サービスへの文字通りポータルとして機能している。
ググることがインターネットの利用の入口として認知されはじめた時,ポータルサイトの使命は終わったのではないかと思うことがあった。 しかし,本書によって,「提供する情報を閲覧者ごとにパーソナライズしたり,閲覧者が自分自身で必要な情報を選択したりカスタマイズしたりする」ウェブポータル(大学ポータル)の必要性を再認識することになった。
アメリカの大学ではウェブポータルの全面的運用と運用計画を持っている大学は78.2%にのぼる(2009年)。これからは第6世代のポータル。つまり,相互接続されたポータルファブリックを構想するウェブポータル。1998年の第1世代ポータルはウェブコンテンツの集約を,第2世代は大学のアプリケーションをエンドユーザの視点で統合する方法としてのポートレット機能に焦点を,第3世代は業務統合を,第4・5世代はポータル間連携,ポートレット標準化,複合アプリケーション構成,サービス指向アーキテクチャ環境の実現,ユーザエクスペリエンス管理を,それぞれ経てきたという。
ウェブポータルの構築は,競争的環境のなかで「受験から寄付まで」のアメリカ的大学の実例と2002年から整備してきた訳者が所属する名古屋大学ポータルから,大学の教育研究活動だけでなく大学の将来戦略と強く結びついていることを知った。
「高等教育分野において最もよく整備されたポータルを有する大学」(148ページ,ただし原著は2002年刊行)は,ワシントン大学,カリフォルニア大学ロサンゼルス校,ボストン大学ルイジアナ州立大学ミネソタ大学,ブリティッシュコロンビア大学バッファロー大学。「これらの大学を参考にすれば,デザイン形式や,コンテンツ,予算化のための代替手段として,様々なものがあることを見ることができる」(同上)とのことだ。
原著は情報技術の戦略的な利用推進によって大学の高度化を目的にしたアメリカの非営利団体 EDUCAUSE による。英文原著は公開されている(→http://net.educause.edu/ir/library/html/pub5006.asp)。