420河本敏治著『名ばかり大学生――日本型教育制度の終焉――』

書誌情報:光文社新書(436),197頁,本体価格740円,2009年12月20日発行

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大学生の学力低下が言われて久しい。高等教育からは初等・中等教育の問題として,最近では「ゆとり教育」の問題として受けとめられてきた。著者の主張は,少子化と実質的な大学定員増こそ学力低下(「名ばかり大学生」)の原因であり,大学が依然として「強烈な点数市場主義」(165ページ)・「一発勝負型のペーパー試験」(167ページ)を課すことで「受験をしないなら勉強しないという,壮大な無気力空間を構築」(174ページ)したとする。「大学の教員が,大学生に問題を感じるならば,入学後教育と試験制度を見直してみるべき」(153ページ)との著者の意見には評者も同感だ。高校や大学の高額な授業料についての日本の特異性もその通りだ。
2003年度の学力下層の大学生はかつての暴走族参入組と同等の学力である,援助交際が進学と学力形成の中で生じた女子高生の荒れである,地方高校では地区を代表する一番手の高校に属する高校生にしか勉強をする根拠がない,などの指摘は著者の主張の枝葉でしかない。学力を問題にするのであれば,大学の入試制度と入学後教育を問題にするのでなければならないという著者の主張こそ本書の主旋律であろう。10歳足らずの段階で形成され,序列化されてしまう学力格差(=所得格差)はトップ校志望以外の受験生に将来見通しのない無力感を植え付けてしまう。学力低下よりこちらのほうが問題なのは著者の思いだけではないはずだ。
全定員のごく一部でしかない東北大学AO入試(とオープンキャンパス)を高く評価し,大学入試を大学で学ぶ最低限の学力を見る試験(一種の資格試験)への言及からすると,一発勝負型の入試を止め(プラス日本の名著の読了義務),希望者を大学に入れ,大学教育(とくに入学後教育)を充実せよ,が著者の描く大学改革論だ。
大学生の学力を大学論として展開しつつ,大学および大学教師への批判は厳しいが,その反語としての激励と読んだ。初等,中等,高等教育において「人知れず取り組まれている」「教師たちの先進的かつ真摯な試み」(190〜191ページ)がさらに述べられていれば申し分なかった。