745佐々木隆生著『大学入試の終焉――高大接続テストによる再生――』

書誌情報:北海道大学出版会,xvi+259頁,本体価格1,800円,2012年2月25日発行

大学入試の終焉―高大接続テストによる再生

大学入試の終焉―高大接続テストによる再生

  • 作者:佐々木 隆生
  • 発売日: 2012/02/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

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日本の高校と大学の接続は,個別の大学が独自の入試によって入学者を選抜することと高校の教育課程を修了することを前提とすることで成り立ってきた。ところがここ10年AOや推薦という「非学力選抜」(=大学入試の選抜機能喪失)と高校における基礎的教科・科目の不履修(=普通教育の未完成)によって高大接続が機能していない。個別大学の入試に依存した高大接続も高校での教育課程の弾力的編成を進めてきた以上普通教育の完成も元に戻すことができない。「日本型高大接続は,教育上の高大接続に必要なナショナル・カリキュラムが不明瞭となり,接続のための共通の学力把握も欠いたままに,大学入試での学力把握までも不確かなものになる方向に変容させられた」(72ページ)。著者の提言は,こうした現状理解の上に立った,新しい高大接続テストによる再生である。
著者は国大協や文科省の入試関係委員をつとめ,高大接続テストをボトムアップで検討してきたひとりである。高校段階での教育の達成度を客観的に把握する,総合判定などを可能とする学力把握を実現する,高校での普通教育の再構築を可能とする,大学におけるリメディアル・初年次教育に必要な資料を提供することを目的とした高大接続テストである。大学教育の実質化,学士力・社会人基礎力の涵養などは大学の入口・高校の出口を射程に入れなければ実現できるものではない。
高大接続にかかわる高校教育制度と大学入試の時代的変容についても詳述し,論点整理と多くの示唆を含んでいる。「高大接続という課題自体が入試制度改革を超え」「むしろ入試制度改革を含む教育改革」(243ページ)は待ったなしである。
著者が危惧する事態に陥ることなく高大関係者の「集合的営為」がもとめられている。「国大協,公大協,私立大学団体連合会ならびに私大連,私大協,大学入試センターなどの大学団体などが「それは大学入試の範囲外の問題だ」として改革の責務を負わず,全高長,私立中高連,全国高等学校PTA連合会,全国都道府県教育長協議会などの高大関係の団体が「大学が責務をもたないならば,高校側が関与することはない」として改革から距離を置くこと」(243ページ)。