019中井浩一著『大学入試の戦後史――受験地獄から全入時代へ――』(その1)

中公新書ラクレ243,275頁,本体価格760円,2007年4月10日

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本書に論評を加える前に大学に関する三択問題を作ってみた。本書でも触れられているものもあるが,大学に関するあなたの常識度をチェックしてみてほしい。2007年度についてはまだ新しいデータが公表されていないので昨2006年度のデータによる。基礎データは文部省学校基本調査や日本私立学校振興・共済事業団資料として公表されている。正解は評者の解説を付して下記に書いておこう。
(1)18歳人口の大学・短大への進学率は? (a)約42% (b)約52% (c)約62%
(2)4年制大学の数はいくらか? (a)約350大学 (b)約550大学 (c)約750大学
(3)4年制の国立大学の数はいくらか? (a)67大学 (b)87大学 (c)107大学
(4)短期大学の数はいくらか? (a)約470短大 (b)約670短大 (c)約870短大
(5)4年制私立大学の定員割れはどのくらいか? (a)約3割 (b)約4割 (c)約5割
(6)4年制私立大学の推薦・AO入試など一般選抜試験によらない入学者はどのくらい? (a)約25% (b)約35% (c)約45%
(7)昨年度入試で国立・私立大学間である逆転現象が起きた。それはなにか? (a)定員充足率 (b)受験率 (c)歩留まり率

正解および解説
(1)(b) 各種統計の「18歳人口」とは,3年前の中学校卒業者および中等高等学校前期課程(中高一貫校の中学段階)修了者である。昨年度の進学率は男53.6%,女51.0%,計52.3%である。進学率が全体で50%を超えたのは2005年度,女が50%を超えたのは2006年度である。ちなみに,大学だけの進学率は45.5%である。
(2)(c) 正確には744大学。国公私立の内訳については次問の解説参照。
(3)(b) 内訳は,国立87,公立89,私立568。周知のように日本の大学は圧倒的に私立に負っている。折からの規制緩和大学版とともにこの総数は今でも増加傾向にある。18歳人口は1966年と1992年をピークに減少傾向であり,2007年は全入時代(志願者数と大学定員数がほぼ一致することを指す)と言われてきた。2007年入試の結果からは実際の全入時代は早ければ来年度,遅ければ数年先ではないかと予測されている。以下が年度ごとの詳細(文科省学校基本調査より)だ。1955年の3.2倍,65年の2.3倍,75年の1.8倍もの大学数となっている。しかも,2000年代に入っても増加し続けている。

年度 国立 公立 私立 総計
1955 72 34 122 228
1965 73 35 209 317
1975 81 34 305 420
1985 95 34 331 460
1995 98 52 415 565
2000 99 72 478 649
2001 99 74 496 669
2002 99 75 512 686
2003 100 76 526 702
2004 87 80 542 709
2005 87 86 553 726
2006 87 89 568 744

(4)(a) 国立8,公立40,私立421の計469短大である。短大数は1995年度の国立36,公立60,私立500の計596をピークに減少に転じている。4年制大学への転換による受験生の確保が底流にあり,前問の4年制大学増加の一因でもある。以下が年度ごとの詳細(文科省学校基本調査より)。ご覧の通り,短大は今や斜陽産業になりつつある。

年度 国立 公立 私立 総計
1955 17 43 204 264
1965 28 40 301 369
1975 31 48 434 513
1985 37 51 455 543
1995 36 60 500 596
2000 20 55 497 572
2001 19 51 489 559
2002 16 50 475 541
2003 13 49 463 525
2004 12 45 451 508
2005 10 42 428 480
2006 8 40 421 469

(5)(b) 568大学中222大学,40.4%が定員割れだった。前年度比62増であり,今年度の結果が注目されている。国立大学は法人化以降(運営費交付金の算定基盤)も定員充足が義務化されており,特別な事情がないかぎり,定員充足まで募集業務を繰り返すことになっている。第2次募集の実施の例がかつて数校あるが,国立大学の定員割れは現在まで存在しない。また,国立大学のライセンス学部と言われる医・歯・薬・教育などの各学部・学科では定員の厳守が原則である。下回ることはもちろん上回ってもダメなのだ。
(6)(c) 私立大学への入学者472,253人中211,703人(44.83%)が推薦等による入学者である。つまり,一般選抜試験による入学者は全体の55%である。さらにいえば偏差値による私立大学ランキングは約半数の入学者に当てはまるにすぎないのだ。国公立大学の場合,推薦・AO入試等による入学者が現在13.9%にとどまっており,国大協はこの率を最大50%まで認める方針を出した。
(7)(a) 国立107.9% (入学者数104,000人/定員数96,000人),私立:107.2% (入学者数472,000人/定員数440,000人) であり,1955年以降初めて逆転した。国立大学が法人化され(敢えて受身で表現しておく),独立採算制を考慮した入学料・授業料収入の増大が主因である(法人化以前はそのまま国庫に入った。法人化以降は法人の自主財源になる)。今年度入試にあたっては,定員を大きく上回る入学者にならないよう文科省から「強い指導」があった。今年度もこの事態が続くことになれば私立大学の経営を圧迫するというのがその理由だ。私立大学財政はその約7〜8割を学生納付金に依存している。
みなさんは何問できただろうか。7問中5問正解でかなりの大学通といえるだろう。もちろん大学関係者なら全問正解が標準だ。
さて,こうした事情をふまえて本書を論評してみる。本書は刺激的な文章から始まっている。

「私たちは大学全入時代を迎えた。今や入試に独自性を発揮できるのは,最難関の一部私大と国立大だけになっているようだ。学力選抜が有効なのはMARCH(明治,青山学院,立教,中央,法政)以上であり,学生を選べるのはぎりぎり日東駒専(日本,東洋,駒澤,専修)レベルまで,と言われる。あとの大学は『学生に来ていただく』のだから入試は形骸化するのが当たり前だ。もはや大学が選抜するのではなく,選抜される時代になっている」(12頁)。

本書は,引用に示された入試の最前線を紹介し,私立大学と国立大学における小論文とAO入試を中心とした入試改革の歴史と現状を分析している。最後に,大学の未来の立場を提言している。以下,詳しく見てみよう。(未完。次稿につづく)