361田中雅一編『フェティシズム論の系譜と展望――フェティシズム研究1――』

書誌情報:京都大学学術出版会,xiii+377頁,本体価格4,200円,2009年2月28日発行

フェティシズム論の系譜と展望 (フェティシズム研究)

フェティシズム論の系譜と展望 (フェティシズム研究)

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現代社会における人・身体・モノの関係をフェティシズムあるいはフェティシュ(呪物,物神)をキーワードに多角的に論じた共同研究だ。編者らは,宗教,経済,性の3領域にまたがって使用されてきた概念がますます有効性を増しているとして,「方法論的フェティシズム論」――近代主義批判を通じて人・身体・モノとの多様な関係の復権を主張し,フェティシズムに着目するということ――に立ち,フェティシズムあるいはフェティシュを多様に論じ,なにがいえるのかに挑戦している。
もともとフェティッシュポルトガル商人が西アフリカで発見した木片や石などの崇拝物を意味した。植民地支配を背景にした野蛮で未開な宗教実践との見方を前提にしたものだった。周知のマルクスによるフェティシズム論,心理学者ビネの性欲異常論,フロイトの去勢コンプレックス論などとして説明されるようになる。
本書は,フェティシズムとモノ研究(第2部),フェティシズム研究の展望(第3部)に先立ち,フェティシズムの思想的背景とその可能性について,理論的な論文を序章を含め13本収めている。宗教を対象にしたフェティシズムの系譜学,キリスト教神学における形象論,精神分析学におけるフェティシズム,日本のフェティシズム系譜学(「フェチ」や「萌え」の背景と読める),モノをめぐる人・身体との関係性,キッチュ考現学文化人類学からのフェティシズム論などそれぞれ独立に読んでもおもしろい。
フェティシズムの倒錯性を批判し,さらに現代社会に蔓延するフェティシズムそのものを批判することは可能か。われわれの「モノ」づくり(あるいはつくらない)が問われている。今秋と来春の続刊が楽しみだ。