934山内太地著『大学のウソ――偏差値60以上の大学はいらなり――』

書誌情報:角川oneテーマ21(A-177),213頁,本体価格781円,2013年11月10日発行

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相変わらず大学関係の本は多い。教育ジャーナリズムの世界は当分活況を呈する雲行きである。それもこれも国の文教政策が関与を強める方向で「改革」案を提示していることと各大学が危機感を背景に独自色を出そうとする動きを加速させていることと無縁ではない。
「日本のトップ層の学力の高校生は,海外名門大学にいくべきだ」(35ページ)と日本のトップエリート大学に見切りをつけろとは著者の豊富な大学見聞と「愚痴サロン」と化した大学改革の現状からのアジテーションである。
といいつつも,「特徴ある取り組みをする,個性的な大学」(137ページ)があり,「自信を持ってお薦め」(同上)している。愛媛大学のあるコースが「世界的研究者を育てる博士課程一貫コース」と紹介されている。誇っていいのやら蔑んでいいのやら評者にとっては複雑な気分だ。「トップエリートではない日本の多くの大学生・受験生のために,日本国内の質の高い中堅大学」(7ページ)のひとつだそうだ。「偏差値が高いことを誇り,中身がない大学は不要」(9ページ)と言われていないだけましか。
受験勝者は海外のエリート大学を,そうでない者はフィリピン英語留学でグローバル化に対応せよとは競争社会を生き抜くための選択肢であるだろうが,この社会は金融やコンサル関係企業だけで成り立っているわけではない。大学問題の本丸が教員評価システムと入試と捉えるならそこにズバッと切り込むべきだ。「私はずっとずっと,改革熱心な大学を取材し,追いかけてきましたが,ごく一部の例外を除いては,大学全体にそれが波及した事例はありません」(174ページ)と大学教育改革に絶望した著者の見通しは,「学習の共同性を促す仕組み」(5ページ)に希望を見いだす見地とは両立していない。