024鈴木直著『輸入学問の功罪――この翻訳わかりますか?――』

書誌情報:ちくま新書637,237頁,本体価格720円,2007年1月10日

輸入学問の功罪―この翻訳わかりますか? (ちくま新書)

輸入学問の功罪―この翻訳わかりますか? (ちくま新書)

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思想・哲学書の翻訳はなぜ読みにくいのか(序章のタイトル)。著者によれば,市場による切磋琢磨を欠如させ,原語に忠実に翻訳することが翻訳とされてきたからとされる。直訳や逐語訳をすることで日本の文化土壌を考慮しない翻訳とも言い換えることができる。あるいは,ジャーナリズムとアカデミズムとの不幸な乖離とも表現できる。
著者は,『資本論』,カント,ヘーゲルの例をあげ,「市場が生み出す消費文化から,あるいは世界共同体に組み込まれた国際関係の現実から目を背け,空疎なレトリックで自我の煩悶を表明してきた若きエリートたちの孤独感と傷ついた社会化過程の表現だった」(150ページ)。西洋文化と異なる日本の現実とその中での翻訳を通しての表現がいかに難しいか。市場から乖離した教養主義があるかぎり,読みにくい思想・哲学書はこれからも世に出る。
著者は,アカデミズムと一般読者の断絶という根底を指摘することで,翻訳論と近代化論のふたつのテーマを繋ぐ。この問題提起は鮮明だ。だが,このこととタイトルにある「輸入学問」と一括することは両立しない。普通「輸入学問」はネガティブな評価をともなう言葉である。「輸入学問」と自己規定することから,ポジティブな評価を見いだすことは難しい。著者は,「輸入学問」として割り切って翻訳に従事しているのだろうか。