016リカードウ研究書2冊(その1)

書誌情報:(1)佐藤滋正著『リカードウ価格論の研究』八千代出版,286頁,本体価格3,800円,2006年10月30日,

リカードウ価格論の研究

リカードウ価格論の研究

(2)福田進治著『リカードの経済理論――価値・分配・成長の比較静学/動学分析――』日本経済評論社,280頁,本体価格4,800円,2006年12月15日,
リカードの経済理論―価値・分配・成長の比較静学分析/動学分析

リカードの経済理論―価値・分配・成長の比較静学分析/動学分析

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David Ricardo (1772-1823) に関する研究書が2冊相次いで出版された。Ricardoはリカードウあるいはリカードとも表記され,どちらを使うかは好みによる。さて,そのリカードウ(評者はこちらを好む)研究は,かつてはスミス研究と並んで日本の経済学史研究の花形だった。マルクス研究が禁圧された時代には迂回的に読まれたし,学問・思想の自由が実現して以降はマルクス理論(とくに『剰余価値学説史』)を基準に振り返られた。その後,リカードウの時代の2つの課題である議会改革と穀物法に格闘した時論家として再評価される研究史をもつ。
ピエロ・スラッファ(Piero Sraffa)による『リカードウ全集 The Works and Correspondence of David Ricardo』(1951-73,11 vols, Cambridge University Press,邦訳は雄松堂より)の刊行は,現代にいたる新しいリカードウ研究の嚆矢となった。スラッファは,リカードウ理論を物量体系によって特徴づけ,価値と分配の分析の理論体系として再解釈した。スラッファ革命 (Sraffian Revolution) とも称される問題提起は,『商品による商品の生産』(1960)で明確に示された(古典派再評価はのちの欧米での「マルクスルネサンス」に繋がる)。同時に,これはポスト・ケインジアンの議論に継承される。パシネッティ (Luigi Pasinetti) の経済成長分析の数学的定式もこの延長ととらえられよう。
これに対し,ホランダー (Samuel Hollandar) の『リカードの経済学 The Economics of David Ricardo』(1979,菱山・山下監訳,全2巻,1998,日本経済評論社,上巻asin:4818810339,下巻asin:4818810347)は,リカードウ理論をまずは諸変数の相互依存関係にもとづく同時決定を主張し,蓄積の原理を主張した。ホランダーの提起は,新古典派の先駆としてのリカードウ再評価に連なり,また,ヒックス(Hicks),サミュエルソン(Samuelson),森嶋らの数学的定式化をもたらした。
ピーチ(Peach)は,Interpreting Ricardo, Cambridge University Press, 1993において,スラッファおよびホランダーの見解をしりぞけ,リカードウ労働価値論と利潤率の傾向的低下の意義をあらためて提起した。
このようなリカード研究史に新著2冊はどのように位置づけることができるだろうか。次稿で論じてみたい。(この稿つづく)