023石崎津義男著『大塚久雄 人と学問――付 大塚久雄「資本論講義」――』

書誌情報:みすず書房,237頁,本体価格2,600円,2006年7月3日

大塚久雄 人と学問

大塚久雄 人と学問

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著者は,編集者として第I期『大塚久雄著作集』(岩波書店)の刊行に関わった。その際およびそれ以降の大塚が語った話のメモを,時代背景を加えて整理したものが本書である。戦前・戦中から戦後にかけての22のエピソードが綴られている。客員教授として赴任したクルト・ジンガー(Kurt Singer)から手ほどきを受けたウェーバープロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」,いわゆる「前期的資本」への反響,『株式会社発生史論』・『欧州経済史序説』・『共同体の基礎理論』・『西洋経済史講座』・『社会科学の方法』・『大塚久雄著作集』などの誕生の経緯などは大塚を理解するうえで参考になる。また,助手時代の2本の代筆の秘話(これは初めて知った),左脚切断や3回にわたる肺手術の話も織り込まれている。
ウェーバー理解の核心を形式合理性と実質合理性の相克に見ていること,ウェーバーマルクス,さらにはマルクスの読み方についても――大塚本人ではなく第三者のメモとはいえ――示唆に富む。大塚は,宇野理論も含め多くのマルクス経済学者が『資本論』を第一巻に重きを置くことに対し,第三巻を基点とすることを説いた。その一端は巻末に付された国際基督教大学での講義録にもうかがうことができる。
2006年は大塚没後10年にあたった。大塚の蔵書は,教え子たちの尽力によって,福島大学附属図書館に「大塚久雄文庫」として保管されている。