588玄田有史著『希望のつくり方』

書誌情報:岩波新書(1270),226頁,本体価格760円,2010年10月20日発行

希望のつくり方 (岩波新書)

希望のつくり方 (岩波新書)

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世界で最初の「希望という名の社会科学」の試み『希望学』シリーズをもとにした希望学入門書である。2011.3.11地震津波の大きな被害をうけた釜石の復興を念じながら本書を読んだ。釜石こそ希望と社会とのかかわりの主たるフィールドであったからだ。
希望を4つの柱――(Social) Hope is a Wish(気持ち) for Something(何か) to Come True(実現) by Action(行動).――から5つの柱――末尾に with Others あるいは Each Other を付ける――にまとめ,希望の可能性・関係性・物語性をわかりやすく説明していた。希望はある意味フィクションであるとし,望ましい未来の行き先について社会や個人が想像力をたくましくするための基盤とする考え方は,法と現実との捉え方の援用としておもしろい。
希望を取りもどすために地域や with Others あるいは Each Other の視点の提示は,期せずして釜石から出でて釜石に戻る希望学の射程を超えた普遍性を持っていよう。
「希望は自分で探し,自分でつくっていくもの」(214ページ)であり,「希望という物語」(同)は誰もが紡ぐことができるという著者の「希望のための戦略論」(220ページ)は大きなメッセージ性を帯びていた。
希望学は地域の希望研究と人間の他者とのかかわりという社会一般の希望研究との両方を含んでいた。著者の希望学が地域の希望研究に力を注ぐ方向性は読み取ることができた。