322東大社研・玄田有史・宇野重規編『希望学[1] 希望を語る 社会科学への新たな地平へ』

書誌情報:東京大学出版会,xxiii+295+9頁,本体価格3,500円,2009年4月6日発行

希望学1 希望を語る

希望学1 希望を語る

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希望学」を見て,ルイ・アラゴンを思い出した。「学ぶとは誠実を胸に刻むこと,教えるとは共に希望を語ること」(京都橘高校のグランドの奥,スタンド席の脇にアラゴンの銘が刻まれている石碑があるそうだ。→http://www.tachibana-hs.jp/06_pta/aragon.htm)。また,「 希望という名の あなたをたずねて」で始まる歌もあった。岸洋子の『希望』(作詞:藤田敏雄,作曲:いずみたく)だった。「希望という名の」で始まる歌はかなり多い。
本書は世界で最初の「希望という名の社会科学」の試みである。表紙に Social Sciences of Hope とある。「希望というテーマ」で社会科学から論じてみようというのが本書である。

  1. 希望について考えることで,社会に対するどのような新たな視点が得られるか。
  2. 社会から希望は失われている(いない)と思うか。だとすれば,その理由は何か。
  3. 社会における希望とは何だろうか(言語化・定義出来ないとすれば,それはなぜか)。
  4. 希望を考える上でヒントとなる事例とは何か。
  5. これまでの社会科学のなかで,希望もしくはそれに関連するテーマを考えた学術研究として,どのようなものが重要であるか。また希望と隣接する概念が研究上あるとすれば,それは何か。

これが本書の考察の対象という。個人の希望と社会の希望の関係が共通のテーマだとすると,おそらく希望を語ることで発掘・発見する新しい論点があるだろう。同時に,それらの論点を既存の社会科学がなぜ扱えなかったのかが鮮明になる。
これまで社会科学が希望を語れてこなかったとするなら,それは社会科学ではない。こんなことをあらためて思った。