書誌情報:日本経済評論社,xii+358頁,本体価格6,000円,2007年11月21日
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大石嘉一郎の論文はかつて大学院受験対策で入れ込んで読んだことがある。巻末の「著作目録」を参照すると1970年代から80年代に書かれた,日本資本主義史論にかかわるものを集中的に読んでいる。
- 「農地改革の再検討」(佐伯尚美・小宮隆太郎編『日本の土地問題』東京大学出版会,1972年7月)
- 「戦後改革と日本資本主義の構造変化――その連続説と断続説――」(東京大学社会科学研究所編『戦後改革1 課題と視角』東京大学出版会,1974年4月,のち大石『日本資本主義史論』東京大学出版会,1999年5月)
- 「農地改革の歴史的意義」(東京大学社会科学研究所編『戦後改革6 農地改革』東京大学出版会,1975年2月,のち大石『日本資本主義の構造と展開』東京大学出版会,1998年5月)
- 「課題と方法」(大石編『日本産業革命の研究 上』東京大学出版会,1975年6月,のち大石『日本資本主義論』)
- 「労働力群の構成」(大石編『日本産業革命の研究 下』1975年10月,のち大石『日本資本主義の構造と展開』)
- 「日清『戦後経営』と地方財政」(大内力編『現代資本主義と財政・金融2 地方財政』(東京大学出版会,1976年8月,のち大石『近代日本の地方自治』東京大学出版会,1990年6月)
- 「日本資本主義論争と農業=土地問題」(歴史科学協議会編『歴史科学大系9 日本資本主義と農業問題』(校倉書房,1976年9月,のち大石『日本資本主義史論』)
- 「資本主義の確立」(『岩波講座 日本歴史17 近代4』岩波書店,1976年12月,のち大石『日本資本主義の構造と展開』)
- 「昭和恐慌と地方財政――農村財政を中心として――」(東京大学社会科学研究所編『ファシズム期の国家と社会1 昭和恐慌』東京大学出版会,1978年12月,のち『近代日本の地方自治』)
- 「日本近代史概観」(高橋幸八郎・永原慶二・大石編『日本近代史要説』東京大学出版会,1980年3月)
- 「戦後日本資本主義の歴史的位置と戦後改革」(『講座今日の資本主義2 日本資本主義の展開過程』大月書店,1981年11月,のち大石『日本近代史への視座』東京大学出版会,2003年8月)
- 「『日本資本主義発達史講座』刊行事情」(『日本資本主義発達史講座』[復刻版]「別冊1 解説・資料」岩波書店,1982年5月,のち『日本資本主義史論』)
- 「課題と方法」「国家と諸階級」(大石編『日本帝国主義史1 第一次大戦期』東京大学出版会,1985年1月,のち『日本資本主義史論』
- 「世界大恐慌と日本資本主義――問題の所在――」(大石編『日本帝国主義史2 世界大恐慌期』東京大学出版会,1987年12月,のち『日本資本主義の構造と展開』)
- 「第二次世界大戦と日本資本主義――問題の所在――」(大石編『日本帝国主義史3 第二次大戦期』東京大学出版会,1994年12月,のち『日本資本主義の構造と展開』)
大石の自由民権運動史,近代日本地方自治史,財政史,都市史など幅広い研究のうちごく限られたものでしかないことにあらためて気づいた。「研究史サーベイの広さと,その研究の位置づけの見事さ」(35ページ,武田晴人)は,評者が読んだ日本資本主義史論にとくにあらわれている。「講座派と大内(力:引用者注)理論の折衷」(92ページ,柴垣和夫),「柔らかい講座派」(116ページ,橘川武郎),「動態的把握にもとづく構造史分析」(179ページ,大門正克),「継続説寄り」(197ページ,保志恂)などとする大石理論への評価も,それぞれの日本資本主義史にたいするアプローチの違いが出ていよう。大石はこよなく「バッカスの神」を愛し,送られてきた抜刷や著書への返礼は欠かさなかったという。
大石嘉一郎という一人の研究者を通じてみた日本近代史の研究史として,吸収したい多くの内容が詰まっている。
かつてこのエントリーで書いた「またまた一橋大学附属図書館広報誌『BELL』と幻の酒「冨國論」」(https://akamac.hatenablog.com/entry/20070706/1183713629)に関連して,「(大石:引用者注)先生のご著書の前には,先生が珍しく褒めて下さった会津の実家の吟醸酒『亜當斯密 冨國論』が供えてあります」(164ページ,田崎[「大」は正しくは「立」]公司)とあった。こんな出会いがあるからおもしろい。