086村上隆著『金・銀・銅の日本史』

書誌情報:岩波新書1085,ix+219頁,本体価格780円,2007年7月20日

金・銀・銅の日本史 (岩波新書)

金・銀・銅の日本史 (岩波新書)

  • -

人類がこれまで掘り出した金の総量は,オリンピックプール3杯分。ノート型パソコン1トンあたり,金92グラム,銀183グラム,銅36キログラムも含まれるという。携帯電話換算だと約1トン(1万個)あたり金280グラムだそうだ。金鉱石1トンあたり30グラム前後で採算がとれるというからパソコン・携帯電話はさしづめ現代の大鉱脈といえる。
本書は,金・銀・銅を通して日本の歴史を概観しようとする試みだ。金・銀・銅を採掘する技術を第1の技術,それらを加工する技術を第2の技術とし,この定着と機能を中心に,草創期(弥生時代〜仏教伝来),定着期(仏教伝来〜東大寺大仏開眼供養),模索期(東大寺大仏開眼供養〜石見銀山の開発),発展期(石見銀山の開発〜小判座の設置),熟成期(小判座の設置〜元文の貨幣改鋳),爛熟期(元文の貨幣改鋳〜ペリーの来航),再生期(ペリーの来航〜)にわける。日本では第2の技術が先行し,第1の技術ともども定着するのは仏教伝来以降だ。仏教伝来期は朝鮮半島からの技術協力と指導が欠かせなかった。
生産遺跡である飛鳥池遺跡の調査では,16世紀に伝来したという「灰吹法」の原型にあたる「石吹法」(著者の呼称。灰の代わりに凝灰石製の多孔質石製坩堝を使って銀を精錬する方法)が行われていた。すくなくとも7世紀後半にはこうした技術が伝来(もしくは開発)されていた。「灰吹法」に継承されるのかどうかについては本書では断定していない。
科学史,技術史,産業遺産の視点から日本史を概観した本書は金・銀・銅に多くの知識を提供してくれる。生産組織や労働組織など働く人びとの実態については一切触れていないから読み手の側で構成する必要があろう。