414デヴィッド・ロスコフ著(河野純治訳)『超・階級――グローバル・パワーエリートの実態――』

書誌情報:光文社,581頁,本体価格3,000円,2009年6月25日発行

超・階級 スーパークラス

超・階級 スーパークラス

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超権力者の集団は存在するのか。国家元首,世界的企業のCEO,メディア王,IT企業家,産油国の統治者,ヘッジファンド経営者,軍の最高幹部,一部の宗教指導者,テロ指導者や大物犯罪者,人気ブロガー(!),学者・科学者などを含めて,存在するというのが本書の主張だ。ここで言う超権力者は国民国家や地域という制限を超えて,世界的なネットワークを持っていることが条件となっており,「グローバルなエリートたち」を「超・階級(スーパー・クラス)」と称する。
もちろん本書のターゲットは権力と富の配分に著しい不均衡である。「マルクス主義」や「階級闘争」を「学問的にはいかがわしい」としながらあえて「階級(クラス)」をタイトルとし,ユダヤ陰謀論(ちなみに著者はユダヤ人)や秘密結社論とは一線を画した現代における権力行使論と呼べるだろう。ホリエモン楽天会長兼社長は一企業の利益追求みならずなんらかの政策決定や人脈を利用してのさらなる利益追求をはかる(った)。ときには国境を越え投資の流れを決定づけるこれらスーパー・クラスの存在とその都度の利害に対応したネットワーク形成は現代資本主義の特徴である。かつてのミルズの分析にしたがい,経済・金融,政治,軍事にかかわるエリートたち,宗教・メディア・文化の指導者たちをリスト化すると,スーパー・クラスの実数は世界中で6000人以上で,日々変動するという。
スーパー・クラスになるためには,(1)男であること,(2)ベビーブーム世代であること,(3)文化的ルーツがヨーロッパにあること,(4)名門大学に通うこと,(5)ビジネス界または金融界に入ること,(6)組織の力を基盤とすること,(7)金持ちになること,(8)幸運であること。加えて,(9)何がなんでもなりたいと望むこと。著者の階級論は結局誰にでもスーパー・クラスの一員になれる可能性を示唆する脱・階級論でもある。
スーパー・クラスによって支配され,権力の行使がおこなわれている現状への批判的視点の先には,世界政府やグローバル統治という新たな機構の構想がある。グローバルに対抗するにはグローバルにというわけだ。「新しい国際的な統治メカニズムは,自由と正義のバランスを取りもどし,スーパークラスの力と世界一般大衆の力のバランスを取りもどすには不可欠」(568ページ)。
「民衆の意思を代表し,最終的にその制度化を目指す,スーパークラスに対抗する一大勢力」(570ページ)とは何だろう。「全世界の大部分の人々にとって,近い将来,スーパークラスか,その均衡勢力の一員になれる可能性はゼロ」((524ページ)だからだ。世界を支配しているのは一握りの権力者ではなく,スーパー・クラスというグローバルなエリート集団。脱・階級論の超・階級論はやはりエリートに期待するしかないようだ。