474伊丹由宇著『にっぽん「食謎」紀行――名物食のルーツを探せ――』

書誌情報:ワニブックス【PLUS】新書(022),277頁,本体価格800円,2010年4月25日発行

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江戸っ子の蕎麦の食べ方はできるだけ「つゆ」をつけない。たくさんつけるのは田舎者。その江戸っ子が死ぬ間際「一度でいいから,つゆをたっぷりつけて蕎麦を食いたかった」という小咄が落語にある。
著者の蕎麦の食べ方は,薬味なしの「つゆ」で少し食べ,わさびを少々口に含む。さらに蕎麦を口に入れ,わさびをまた口にする。蕎麦は蕎麦で,わさびはわさびで風味を味わおうということだ。評者もこの食べ方の蕎麦がもっともおいしいと思う。蕎麦湯で割っておいしく飲める「つゆ」というのも蕎麦好きにはこたえられない。
連休を利用して行った岩国の錦帯橋は予想に違わずすばらしい景観だった。その錦川の最上流で,わさびの若芽と葉を醤油漬けに加工したのが,地元のおばちゃんたちの「錦清流グループ」が作る「わさびの醤油漬け」だ。岩国出身の著者によれば「日本一旨い山葵漬け」だそうで,30年間以上食べ続けているというからうらやましい。本書を読んでいたにもかかわらず,岩国に行って「わさびの醤油漬け」を忘れていたとはなんとも不覚であった。
門司港名物・鉄板焼きカレードリア――食したところは「陽のあたる場所」――は「食謎」に入れて欲しい一品だ。「労研饅頭」も加えてほしい。
旅の前に,自慢げではない自慢話と蘊蓄が満載の本書で食の知識でまずは小腹を満たしてもいい。