221伊藤章治著『ジャガイモの世界史――歴史を動かした「貧者のパン」――』

書誌情報:中公新書(1930),4+v+243頁,本体価格840円,2008年1月25日発行

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ジャガイモ本を読んだついでに(https://akamac.hatenablog.com/entry/20080914/1221379900),未読だった本書を繙いた。ちなみに,山本本では先行して出版された本書の参照はなかった。山本本がジャガイモの生物としての特徴に力点があるのにたいし,本書伊藤本はジャガイモを歴史の転換に位置づけたという違いがある。
原産地ペルーからアイルランドプロイセン,フランス,ロシア,そしてイギリスと巡って「貧者のパン」たるジャガイモを描いたところに本書のおもしろさがある。日本各地のジャガイモ栽培と歴史を交叉させ,紙数を割いているのも特徴だ。「貧者のパン」から大正・昭和初期の劣悪な食生活にかかわって,大原孫三郎の倉敷労働科学研究所発足による「労研饅頭(まんとう)のエピソードも本書ならではのもの。現在「労研饅頭」が残っているのは松山だけだが,これには触れられていない。
桜美林学園は,大原孫三郎の奨学金によってオベリン(オベレンとも)・カレッジで学んだ清水安三によって作られた。オベリン・カレッジはフランス・アルザスの聖職者ジャン・フレデリックオベリン(1740-1826)にちなむ。オベリンアルザスにてキリスト教普及や幼児教育に熱心に取り組んだほか,ジャガイモの品種改良と普及に尽力したのだという。たしかに桜美林大学の英文(http://www.obirin.ac.jp/)は,J. F. Oberlin Universityになっている。Oberlin→桜美林なわけだ。また雑学的知識がひとつ増えてしまった。ジャガイモがまさか桜美林に結びつくとは思いもしなかった。
今年になって矢継ぎ早に現れたジャガイモ本2冊,あなたはどちらを読む? 「アンデスから世界への壮大なドラマ」(山本本の帯の惹句)かそれとも「小さなイモの大きなドラマ」(伊藤本,同上)か。ま,2冊読んでもお腹がはったり,おならが出ることはないことだけは確かだ。