書誌情報:中公新書(2196),xv+284頁,本体価格880円,2012年12月20日発行

- 作者:兼田 麗子
- 発売日: 2012/12/18
- メディア: 新書
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評者未読の『福祉実践にかけた先駆者たち――留岡幸助と大原孫三郎――』(藤原書店,2003年,[isbn:9784894343597])および『大原孫三郎の社会文化貢献』(成文堂,2009年,[isbn:9784792360900])をもとに書き下ろした本書は孫三郎の経営活動と社会事業活動をバランス良く描いている。倉敷という風土に孫三郎の二足のわらじの出自を見いだし,倉敷にオーエン的世界の実現――ただし,「海外の資料を取り寄せるなかで,オーエンの事績を確認した」(30ページ)・「欧米先進諸国の工場経営例について学んだ」(40ページ)と指摘しているが新書の性格からか文献を特定していない――を目指した孫三郎の奮闘を追究している。
孫三郎は本業として倉敷紡績(現クラボウ)と倉敷絹織(現クラレ)の経営にかかわり,中国銀行,中国電力,山陽新聞など地域の企業経営とインフラ整備に尽力し,倉紡中央病院(現倉敷中央病院)を設立した。また,大原奨農会農業研究所(現岡山大学資源植物研究所),大原社会問題研究所(現財団法人法政大学大原社会問題研究所),倉敷労働科学研究所(現財団法人労働科学研究所)を設立して資金提供し活動を支援した。大原美術館と駒場にある日本民藝館の設立も孫三郎の偉業である。
「人間としての倫理と,経済性や合理性の両立」(128ページ)を考えていた孫三郎にとって「経済活動などの日常活動を行いながら,それら自体が同時に,地域や人々の利益につながる社会文化貢献」(125ページ)であり,経営とメセナは一体のものだった。多くの逸材を生み出した大原奨学金も「地下水づくり」として不可欠だった。
評者得意の労研饅頭についてもその由来を端的にまとめていた。「栄養面でも労働科学研究所は,社会に成果を発信した。中国東北部の労働者の間で主食となっていた饅頭(まんとう)について,暉峻(義等:引用者注)を中心に研究が重ねられた。そして,日本人の口にあった主食代用品として,栄養バランスに配慮した労研饅頭が考案され,関西地域で販売された。(改行)この蒸しパンのような労研饅頭は,倉敷教会の田崎牧師が宣教に訪れた松山にわたり,夜学校の学生と奨学金充実のために製造,販売が手がけられるようになった。労研饅頭はこの松山の店舗で現在も購入することができる」(156ページ)。
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