216二村一夫さん,社会政策学会学術賞受賞

同僚である会員のNさんから朗報を聞いた。学会のホームページでは選定理由が公表されている。
二村さんとは浅からぬ縁があり,今回の受賞はほんとうにうれしい。

二村一夫『労働は神聖なり,結合は勢力なり−高野房太郎とその時代』(岩波書店)は,高野房太郎についての日本初の本格的評伝であり,二村会員が30年余にわたって研究してきた成果である。いうまでもないが,高野房太郎は日本における労働組合運動の生みの親であり,また明治期における社会政策学会の数少ない会員の一人であった。本書は,高野房太郎について,その誕生から死亡までの本人と周辺の諸資料をくまなく渉猟して,これまでよく知られていなかった無数の事実を発掘し,その本格的評伝となっている。さらに,これまでの研究では,労働組合期成会や鉄工組合などをキーワードとする初期の労働組合運動については,片山潜・西川光二郎著『日本の労働運動』に依拠することが多かったが,本書は,この共著に潜むところの,重要な事実の誤りを数多く指摘し説得的に是正している。
本書は,読みやすさを優先して,全部の注を省略し,それらはインターネット上の『二村一夫著作集』に収録の本書オンライン版にゆだねている。しかし,このことによって,本書の学術研究上の価値はそこなわれていない。それどころか,推測して記述せざるを得ない個所では,本書は,その推測の根拠を必ず明記するという周到さを備えている。物語風歴史書ではないことが,本書では意識されている。本書は,日本の労働運動の黎明期について,その歴史像の再構成に成功したと評価できる。この分野についての今後の研究は本書を基準とし,本書におおく依拠するであろうことは間違いない。選考委員の全員一致で,本書は学術賞にふさわしいと判断された。
なお望蜀の感を述べれば,本書の一部,たとえば生協運動の先駆者としての高野房太郎については,さらに発掘できる事実が存在する余地を感じられた。もっとも,これらは後学にゆだねられた研究課題であろう。(→ http://wwwsoc.nii.ac.jp/sssp/2009gakkaisho.html なお,引用にあたっては「、」を「,」に変えている。)

【追記:2009年6月7日】同著はすでに財団法人労働問題リサーチセンター第23回「沖永賞」を受賞していたことを知った(2009年3月17日)。また,大原社会問題研究所編『社会・労働運動大年表』(労働旬報社)で第1回「沖永賞」を受賞されている。