書誌情報:岩波新書(1310),viii+237頁,本体価格760円,2011年5月20日発行
- 作者:依田 高典
- 発売日: 2011/05/21
- メディア: 新書
- -
日本のブロードバンドはスピードと価格水準で世界一だそうだ。次世代インターネットは「鉄道,自動車,飛行機が社会を変えたほどに,世界観の変革を世の中にもたらしてはいない」(3ページ)。そのうえで次世代インターネット(ブロードバンド化,IP v.6化,固定・携帯の融合サービス[FMC]化,クラウド化)の付加価値創造の可能性を見いだすべく,情報通信産業を経済学から分析しようという情報通信経済学の展開であり,これからの日本のブロードバンドの見取り図を描く目的をもった意欲的な新書である。
2015年頃までに全世帯に光ファイバ通信(FTTH: Fiber to the Home)を整備する「光の道」構想の前に立ちはだかっている「ブロードバンドのトリレンマ」(競争ダイナミズムの枯渇,厳格なボトルネック規制,日本企業のガラパゴス化)を,デジタル・コンテンツ,ネットワーク,プラットフォームに切り分け,事前規制から事後規制へと変わった競争政策を詳述している。「デジタル経済を理解するために,デジタル経済だけの経済学は必要ない」・「どこの大学でも教えられている経済学を適切に使えば,デジタル経済を解き明かすことができる」(21ページ)。規模の経済性,ネットワーク効果,両面市場(一方は無料他方は有料の,グーグルのビジネス・モデル),需要密度の経済性などがそれだ。
アップルはマイクロソフトとグーグルという「第三勢力」(119ページ),KindleやiPadは「現状ではまだ高級な遊戯品」(123ページ) としつつ,著者の期待は「アドバンテージの異なるプレイヤの垂直型の競争が進展し,複数のプラットフォーム間で公正な競争」(128ページ)にある。日本の携帯電話のスマートフォン化が著者の「理想」である。
ブロードバンド立国への提言は具体的である。放送・医療・教育への活用であり,高齢者や過疎など実際の生活のなかで利活用できるかどうかである。エネルギー・環境分野へのブロードバンド活用(スマートグリッド)も見据え,ブロードバンド→グリーン→ソーシャルの展開はぶれていない。
- 関連エントリー
- ウォルター・アイザックソン(井口耕二訳)『スティーブ・ジョブズ』I・II→https://akamac.hatenablog.com/entry/20120101/1325429070
- 梅田望夫・飯吉透著『ウェブで学ぶ――オープンエデュケーションと知の革命――』→https://akamac.hatenablog.com/entry/20101230/1293719857
- リチャード・N・カッツ編(梶田将司訳)『ウェブポータルを活用した大学改革――経営と情報の連携――』→https://akamac.hatenablog.com/entry/20101224/1293202321
- 『オールアバウト・アップル All About Apple』→https://akamac.hatenablog.com/entry/20100828/1283004826
- 小川浩・林信行著『アップルVS.グーグル』→https://akamac.hatenablog.com/entry/20100816/1281968804
- 村井純著『インターネット新世代』→https://akamac.hatenablog.com/entry/20100402/1270218780
- 深見嘉明著『ウェブは菩薩である――メタデータが世界を変える――』→https://akamac.hatenablog.com/entry/20081201/1228123591
- 深見嘉明著『ウェブは菩薩である――メタデータが世界を変える――』→https://akamac.hatenablog.com/entry/20081004/1223127246
- 梅田望夫著『ウェブ時代をゆく――いかに働き,いかに学ぶか――』→https://akamac.hatenablog.com/entry/20071224/1198479091
- 鈴木謙介著『ウェブ社会の思想――<遍在する私>をどう生きるか――』→https://akamac.hatenablog.com/entry/20071105/1194254243
- 西垣通著『ウェブ社会をどう生きるか』→https://akamac.hatenablog.com/entry/20070608/1181301531
- 歌田明弘著『インターネットは未来を変えるか?――科学技術を読み解く――』・『インターネットは未来を変える?――現代社会を読み解 く―→https://akamac.hatenablog.com/entry/20070304/1172990137
- インターネット時代のサラリーマンと市民社会――21世紀のサラリーマンを展望する――→https://akamac.hatenablog.com/entry/20070225/1172367581
- インターネットの経済学史関係E-textの現在と経済学史研究→https://akamac.hatenablog.com/entry/20070219/1171867994
- インターネット利用教育の衝撃と方向→https://akamac.hatenablog.com/entry/20070217/1171678782
- インターネットと共同・共有の思想――ホームページ作成の経験から――→https://akamac.hatenablog.com/entry/20070215/1171507804
- 1年前のエントリー
- 2年前のエントリー
- 3年前のエントリー
- 4年前のエントリー