675依田高典著『次世代インターネットの経済学』

書誌情報:岩波新書(1310),viii+237頁,本体価格760円,2011年5月20日発行

次世代インターネットの経済学 (岩波新書)

次世代インターネットの経済学 (岩波新書)

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日本のブロードバンドはスピードと価格水準で世界一だそうだ。次世代インターネットは「鉄道,自動車,飛行機が社会を変えたほどに,世界観の変革を世の中にもたらしてはいない」(3ページ)。そのうえで次世代インターネット(ブロードバンド化,IP v.6化,固定・携帯の融合サービス[FMC]化,クラウド化)の付加価値創造の可能性を見いだすべく,情報通信産業を経済学から分析しようという情報通信経済学の展開であり,これからの日本のブロードバンドの見取り図を描く目的をもった意欲的な新書である。
2015年頃までに全世帯に光ファイバ通信(FTTH: Fiber to the Home)を整備する「光の道」構想の前に立ちはだかっている「ブロードバンドのトリレンマ」(競争ダイナミズムの枯渇,厳格なボトルネック規制,日本企業のガラパゴス化)を,デジタル・コンテンツ,ネットワーク,プラットフォームに切り分け,事前規制から事後規制へと変わった競争政策を詳述している。「デジタル経済を理解するために,デジタル経済だけの経済学は必要ない」・「どこの大学でも教えられている経済学を適切に使えば,デジタル経済を解き明かすことができる」(21ページ)。規模の経済性,ネットワーク効果,両面市場(一方は無料他方は有料の,グーグルのビジネス・モデル),需要密度の経済性などがそれだ。
アップルはマイクロソフトとグーグルという「第三勢力」(119ページ),KindleiPadは「現状ではまだ高級な遊戯品」(123ページ) としつつ,著者の期待は「アドバンテージの異なるプレイヤの垂直型の競争が進展し,複数のプラットフォーム間で公正な競争」(128ページ)にある。日本の携帯電話のスマートフォン化が著者の「理想」である。
ブロードバンド立国への提言は具体的である。放送・医療・教育への活用であり,高齢者や過疎など実際の生活のなかで利活用できるかどうかである。エネルギー・環境分野へのブロードバンド活用(スマートグリッド)も見据え,ブロードバンド→グリーン→ソーシャルの展開はぶれていない。