005インターネットの経済学史関係E-textの現在と経済学史研究

初出:時潮社『経済と社会』*1第11号, 1997年11月25日

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はじめに
インターネットを論評する時,とかくするとWWW(W3あるいはWebともいわれる)に矮小化し,一部のホームページ(以下HPと略記)をもって全体を裁断する傾向がある。たとえば,「インターネットでは情報を発信するコストが低いので,価値の低い情報が溢れる。費用が低下すれば限界的な価値が下がるというのは,経済学的に考えれば当然のことだ。世界中から情報を集められるのは事実としても,そのほとんどは,どうでもよいジャンク情報なのである。『インターネットの世界』とは,実は価値が非常に低い情報が氾濫している世界である。『インターネット・サーフィン』などという人がいるが,問題意識もなくサーフィンしようとすれば,ジャンク情報の大海で溺れてしまうだろう。これは暇な人でなければできないことだ。インターネットを賢く使うためには,問題意識を明確にもつことが絶対に必要な条件である。*2」と。「問題意識を明確にもつことが絶対に必要な条件」であるにはことインターネットにかぎったことではない。
情報発信の容易さは,これまで出版という形態でしか表現できなかった普通の人たちが身近な情報を気軽に発表できるようになったことに本質を見るべきである。もちろん現実には「どうでもよいジャンク情報」も多いが,これもインターネット特有の現象ではない。いままでのメディアの中心をなす書籍,雑誌,ビデオなどなどにおいて良質の情報が少数であることを思い起こせば多言を要しまい。ここにはインターネットを特徴づけるに,「どうでもよいようなジャンク情報」論・「大海のゴミ」*3論・「電子版チラシ広告」*4論と総称しておくことができそうだ。たまたま引用したのではない。マスコミを含めてインターネット論の多くがこのような情報発信の容易さを簡単に価値の低さと同一化してしまっている偏見と書籍情報などほかのメディアの現状を棚上げにしている一面性がある。要するに,価値の高い,貴重な情報がインターネットに多く存在していることを見ていないし,インターネットに対してだけピューリタニズムを要求するのはあまりにも偏狭というべきである*5。
本稿では,インターネット上にあるいくつかのリソースのうち,経済学史関係 E-text*6および経済学関係データベースの一端を紹介する。さらに,筆者が属する経済学史学会のこの間のインターネットへの取組を紹介し,インターネットと学会活動の展望を論じてみよう。

I 経済学史関係 E-text
この分野で意欲的に E-text 化*7の事業を推進しているのは,カナダ・マクマスター大学 (http://socserv2.socsci.mcmaster.ca/~econ/ugcm/3ll3/) *8 である。ロッド・ヘイ (Rod Hay) を中心とするスタッフによって絶えず新しいE-textが加えられている。E-text 化の目的は,経済学部学生および大学院生にたいして経済・社会思想史の古典に接する機会を多くし,実際に古典の内容に触れてもらうというところにある。したがって,経済学史研究にあっては必須のテクスト・クリティークを顧慮したものとはなっていない。それでも,専門研究者にとって有益なのは,現在入手しがたい著書のいくつかをインターネットを通して(必要に応じてダウンロードして個人のコンピュータで,あるいはハードコピーででも)読むことができることである。参考までに E-text 化された著者のリストを以下に掲げよう。
Anderson, Anonymous(匿名), Babbage, Barbon, Bawerk, Beccaria, Bentham, Berkeley, Botero, Cantillon, Cassel, Child, J.B. Clark, Roger Coke, Commons, Davanzati, D'Avenant, Joseph Davis, Defoe, Dunbar, Edgeworth, Ferguson, F. A. Fetter, Irving Fisher, Samuel Fortrey, Gervaise, Godwin, Hale, James Harrington, Hobbes, Hodgskin, Hume, Hutcheson, Jevons, Joplin, John Maynard Keynes, Kovalevsky, Kropotkin, Law, Lloyd, List, Locke, Malthus, Maine, Maitland, Malinowski, Gerard de Malynes, Marshall, Marx, Menger, J.S. Mill, John Millar, Misselden, Montesquieu, Mun, Isaac Newton, Nicholson, Dudley North, Owen, Pareto, Petty, Fran?ois Quesnay, Ricardo, Rousseau, Ruskin, Schmoller, Selden, Simmel
さらに,例えば Ricardo と Smith のページには,
Principles of Political Economy, Essay on Profits, The High Price of Bullion
Wealth of Nations, The Theory of Moral Sentiments, "Account of the Life and Writings of Adam Smith" by Dugald Stewart
というように E-text になった著作がリストアップされているようになっている。この例にみられるように,著者のすべての著作が E-text になっているわけではなく,代表的なそれに限られてはいる。しかし,厳密なテクスト・クリティークを必要とする場合はいざ知らず,いまや主要な著作がインターネットを通して自由に入手できる意味を評価したい。デジタル化されている文献が存在している意味は,ひとたびデジタル化されていれば,引用などを含めた再利用が容易であること,印刷メディアを通して入手しにくくなっているものであればあるほど再現効果が大きいこと,特定の語句の検索などは機械的に処理できること,があげられる。社会科学の古典を読めという頭ごなしの示唆よりは,読める文献の環境整備をしたうえで読書指導をしたほうがはるかに教育効果が大きいことを考えると,E-text の存在は,高等教育における教育のあり方とも関わって興味深い試みである*9。研究者にとっても,研究の対象文献としては限界をもっているものの,論文・著書への引用や特定語句の検索など補助的研究手段としては十分利用できうる資料と思われる*10
さて,インターネット上の E-text は,おしなべて欧米語でのものであり,日本語文献は残念ながらほとんどない。多分,出版社サイドで営利活動の一環としてCD-ROM出版計画*11が進んでいると思われるが,まだそれすら実現していない現実がある。インターネットでの提供が著作権・翻訳権の問題からすぐには無理にしても,せめて定評ある経済学ひいては広く社会科学の古典著作のCD-ROM化を強く希望するのは筆者だけではあるまい。

II 文献データベース
学術情報センター (NACSIS) 【現国立情報学研究所 (NII) 】は,研究者にとってもっとも身近な情報収集機関である。すでに知られているように,「経済学文献索引データベース」がある。「経済学文献索引データベースは,我が国の経済学関係の雑誌等に掲載された論文の標題,著者名等を収録したデータベースで,経済資料協議会の協力を得て学術情報センターが作成しています。本データベースの約900誌にのぼる収録対象雑誌は,我が国の経済学関係の主要な学術雑誌を網羅しています。我が国の経済学分野の2次情報を知ることができます。」(http://www.nacsis.ac.jp/ir/dbmember/keizai-j.htmlより引用*12) 『経済学文献季報』として印刷・公刊されていたものであり,ここにあるデータベースは1983年以降の147000件が対象である。NACSIS-IRという学術情報センターが提供するサービスのうちのひとつであり,あらかじめ所属する研究機関を通じて利用申請をする必要がある。利用方法は,(1)一般の公衆電話回線,NTTのDDX-TP(第2種パケット交換網)またはINS-P(INSネットパケット通信)経由,(2)学術情報ネットワーク・パケット交換網またはNTTのDDX-P(第1種パケット交換網)により接続されている各大学の情報処理センター等や大型計算機センター経由,(3)LANに接続されている端末からSINET等のインターネット経由,の3つの方法がある。実際の利用にあっては,telnet というプロトコルを使う必要があるほか,利用料金が徴収される(接続料:各データベースに接続している時間に対して50円/分,ヒット料 :検索された文献について,その書誌情報あるいは抄録等を端末に出力した件数に対して13円/件)。事前登録制であり,従来型のインターフェイスであるうえ,課金システムがあるので必ずしも使い勝手はよくない*13。とはいえ,利用者が増えることにより利用者本位のシステムへの転換の可能性は十分考えられるから,積極的な登録・活用を期待したい。
次に紹介するのは,経済学研究にとって基礎的資料になる雑誌のデータベースである。WebEC (http://www.helsinki.fi/WebEc/) という経済学関係欧文雑誌のリスト (World Wide Web Resources in Economics) で以下の雑誌の内容を確認できる(再録にあたってはリストを省略:2007年2月19日。)。
このリストは,当該雑誌の関係機関のホームページにリンクを張るという壮大なリンク集であって,各雑誌のホームページは,著者,タイトルだけのシンプルなものから,アブストラクト,キーワードまで含めたものまで(いわゆるオンラインジャーナルというインターネットを通して全文読むことのできるものは少ない)多種多様なスタイルを持っている。印刷とオンラインという難しい問題を抱えながらも,必要最低限の書誌情報だけでもインターネットで入手できるという点はこれまでにない魅力である。
ほかにも,全世界の経済学系の学部,研究所,センターを網羅したリスト*14も存在するので,インターネットを通した経済学および経済学関係のリソースは,目的意識をもってアクセスするかぎり豊富な内容をもっているといっていいだろう。

III 経済学史学会とインターネットの活用
現在のところ経済学史学会としては,メーリング・リストとホームページを運用している。メーリング・リストは,筆者の95年10月経済学史学会での報告*15による問題提起を大きな契機として,同年11月からの試行と96年6月からの暫定的メーリング・リストの経験を経て,同年8月9日から本格的な運用が始まった。さらに,同年11月の学会理事会で正式に確認され現在にいたっている。会員総数840名の1割を超える約90名が参加している。メーリング・リストでは,(1)経済学史学会の活動に関するもの(経済学史学会大会,部会例会,学会の主催・共催するシンポジウムの案内,学会年報内容予告など),(2)各種研究会・学会案内(国内・国外) ,(3)参加者の研究の紹介・アナウンス(論文そのものの配信はいまのところない),(4)ディスカッション(最近の例では公正概念についての討論がおこなわれた),(5)ヘルプ (教えて下さい・助力してください),コール(共同研究会よびかけ,Call for Papers),(6)研究資料案内(インターネット上の研究資料案内,近刊雑誌のコンテンツなど),(7)海外学会のメイリングリストからの転送情報,などを内容として活発な情報交換がなされている。
同様に,経済学史学会のホームーページが97年5月に立ち上がった。96年の学会理事会でのホームページ作成の了承を得たうえで,すでに発足していたメーリング・リストのメンバーによってファイル作成の準備期間(ほぼ1年)を経たものである。97年5月の理事会では学会活動の記録的文書の掲載も了承された。現在の英語ページと日本語ページの内容は以下のようである。
Welcome to SHET, Forthcoming Conferences, Annals (Contents), Activities, Our Conferences, Newsletter (Contents: in Japanese), Study Groups, Relevant Journal's Contents, Mailing List (Introduction: in Japanese), Personals, Links
研究会・講演会のお知らせ,経済学史学会紹介,『経済学史学会年報』(目次),大会研究報告,経済学史学会ニュースレター(目次),講演会,その他,部会活動, 研究会,関連雑誌の目次,SHETメーリング・リスト,会員個人のホームページ,リンクページ
内容的には未完成だが,常時改訂作業が進んでいるほか,経済学史学会の50年企画事業と関連させた利用(主として経済学史関係文献データベース)も企図されており,今後の充実が待望されている。
インターネット時代をむかえて,いくつかの経験を通して見えてくるものは,以下のような電子情報としての共有化ではないかと思われる。いくつかの問題提起をしてみよう。
(1)テクストデータベース
社会科学には古典と称される書物がある。この書物は従来活字情報の独擅場だった。厳密なテクストクリティークは,文献解釈学と評されようと依然として社会科学研究の王道たりうる。ここでの提言は,読む手段としての活字情報と活用手段としての電子情報の棲み分けである。古典にはいくつかの版があり,どれを電子情報として共有化するかが難しい。さしあたり,標準テクストからはじめ,必要度と重要度に応じて徐々に電子情報化することが考えられる。また,依拠したテクストのページとの対応も考慮しておかなければならない。この点で欧米のデータベースは必ずしも先進とはいえず,テクストクリティークに配慮したものとはなっていない。日本の情報発信基地としての余地は十分にあるといえる。
(2)研究文献データベース
以前は,活字情報として文献季報が複数存在していた(『経済学文献季報』や『経済評論』での巻末付録)。このうち『経済学文献季報』は復刊されるとともに,学術情報センター(NACSIS)に1983年からのものが電子情報化されている(この点既述)。また,『経済評論』の遺産を継承するかたちで1993年4月から『季刊経済研究』(大阪市立大学経済学研究会発行)に『経済学文献 四季報』が掲載されている。社会科学系諸学会の横断的連携によって,研究者が使いやすい研究文献データベースの作成に着手すべきである。インターネットだから英語にしなければならないということはなく,まずは日本語文献から着手し,徐々に英語化を考慮すればいい。すでに活字情報として存在しているものから最新のものへとバージョン・アップをしていけば,これも日本発の情報基地としてきわめて有益である。
(3)学会活動のオープン化
自然科学系学会においては学会のホームページをもちそれを通して海外との関連学会との協力,会員相互の研究交流さらには学会外へのアナウンスをするというのはごく普通の事柄に属するようになった。社会科学系学会では未だ少数にとどまっている*16。この面での社会科学系学会の学会としての電子情報化は必要だ。これまでの学会活動のデータを会員全体で共有できるし,なにより,非会員にも広く活動内容をアナウンスすることで開かれた学会として社会的に認知されうる。自然科学系学会とも歩調を合わせて,学会連合としての充実が期待されるし,情報発信の対象としても実現可能な取り組みだろう。
(4)研究交流の手段
研究発表の手段としては書物,紀要などを通して,これからも主として活字情報として記録されるであろう。それ以上にこれからは電子メールを介して,そうしたものに結実する過程での情報交換と意見交換がしやすくなり,推敲を重ねる機会を増やすことができる。さらにすでに触れたようなメーリング・リストを介しての研究交流・情報交流はこれまでの時間と空間からの制限を少なからず緩和するにちがいない。電子メールの使用は,国境を越えたインターナショナルな交流が普通になっており,国際交流それ自体が最初から含まれるといっていい。
(追記)筆者は,現在CIEC (Council for Improvement of Education through Computers;コンピュータ教育利用協議会)発行の会誌『コンピュータ&エデュケーション』(柏書房,現在は東京電機大学出版局)の編集長をつとめている。CIECは,「だれもが使えるコンピュータをめざして」おり,「コンピュータをだれもが使える世界をめざしたエデュケーション」を実現しようとする団体である。コンピュータをだれもが使えるようになるためには,使う人の立場に立ったソフトウェア,そしてそれを支えるハードウェアの発展も不可欠である。開発者と利用者を結ぶネットワークや学び合う人々のネットワークの構築は緊急のものとなっている。本稿が成るにあたっては,CIECでの議論および『コンピュータ&エデュケーション』編集上での経験が大きく影響している。記して感謝する。

*1:現在は刊行されていない。2007年2月19日補注。

*2:野口悠紀夫『パソコン「超」仕事法』講談社,1996年4月,asin:4061008064,71〜72ページ。もっとも,野口『「超」勉強法 実践編』講談社,1997年1月,asin:4062082934,ではインターネットやパソコン通信の有効性を強調している。ここ一年のインターネットおよびインターネットの学術利用が一定普遍性をもち得るようになった事情の反映とみることができよう。

*3:『インターネットの激震』別冊宝島262,1996年6月,asin:4796692622,では素人のホームページを評するに「大海のゴミだ」としてもいる(32ページ)。

*4:牧野昇「(対談)インターネットの正体」『VOICE』1996年7月号。ここで紹介したような発言をするなら,そういいきる当人たちが「どうでもよいジャンク情報」ではない情報を,インターネットを通じて発信し,範を示してほしいものだ。文芸評論家は対象とする作品に内在することなしには評論しえない。同様に,インターネット評論家はインターネットに内在することなしに(メールも使わない,Webも覗かない,Newsも読まない,などなど:ただし,これも一つの見識であることを否定しない)インターネットを論じえない。

*5:これとはまったく反対にインターネット万能論ともいうべき論調も目立つ。佐藤俊樹ノイマンの夢・近代の欲望』講談社選書メチエ87,1996年9月,asin:406258087X,が指摘するように,情報技術の形態変化と社会システムの変化とは異なる事象だ。前者をもって後者を単純に類推する時,あまたのインターネット万能論が蔓延する。インターネットを頭から否定してはならず,盲信してもならず。本稿は限られた視点からではあるが,この否定論と万能論の両極論を批判する試みでもある。

*6:E-text (electric text) は,electric book, online book, online text などとも呼ばれている。印刷図書のデジタル版であり,古典文学など,著作権の問題のないテクストを中心に全世界で活発にE-text 化が進められている。

*7:CD-ROMとして提供されているものとしては,Past Masters の Electric Catalogue シリーズが知られている。http://www.nlx.com/text/catalog.html で詳細を一覧できる。

*8:ちなみに,ブリストル大学 (http://www.efm.bris.ac.uk/het/index.htm) には,マクマスター大学のミラーコピーが置かれているだけでなく,E-text になったファイルから任意の単語等で検索もできる。運営しているのは,来日経験があり,『世界経済とマルクス経済学』(渋谷・一井訳,中央大学出版部,1991年,asin:4805721480)の著者でもあるアンソニー・ブリュワー (Anthony Brewer) である。さらに1997年5月,このブリストル大学のミラーコピーもメルボルン大学にロバート・ディクソン (Robert Dixon) の手によって作られた(http://melbecon.unimelb.edu.au/het/)。

*9:ほかにあまたある E-text については,すでに発表した筆者の紹介稿を参照されたり。(1)「インターネットのマルクス・エンゲルス――Marx and Engels Online Library の紹介――」(マルクス・エンゲルス研究者の会マルクス・エンゲルスマルクス主義研究』第25号,1995年9月,八朔社),(2)「インターネットのマルクス・エンゲルス(2)」(同会『マルクス・エンゲルスマルクス主義研究』第26号,1995年12月,八朔社),(3)「インターネットにおける経済思想史・社会思想史関係 E-text リスト」(『愛媛経済論集』第15巻第1号,1996年3月),(4)「インターネットとマルクス・エンゲルス研究」(基礎経済科学研究所『経済科学通信』第82号,1996年10月),(5)「インターネットの『資本論』――デジタル『資本論』実現の可能性を探る――」(新日本出版社『経済』第25号,1997年10月号)。これらで紹介している URL (Uniform Resource Locator) ――どこのネットワークにどのような方法(プロトコル)でアクセスするかを明示して指定するための書式――は,頻繁に変わる可能性があるので,最新情報については筆者のホームページ(http://www.cpm.ll.ehime-u.ac.jp/AkamacHomePage/AkamacJ.html)を参照されたい(上記(1)(2)(3)についてはホームページにファイルを置いている)。

*10:筆者のホームページには『資本論』ドイツ語版第1巻の E-text のプロジェクトがある。1995年10月から開始し,あとふたつの章を残してほぼ完成するが,次のような利用があることを最近知った。「論文中の引用文献は邦訳があるものは可能なかぎり既訳の訳文を使用し参照箇所を示すようにつとめた。特に『資本論』関係の文献からの引用は大月書店全集版と草稿集を参照するようにした。(改行)これらの文献からの引用にはほとんど20世紀初頭のロシア語版が用いられており,いろいろな手掛かりから邦訳の該当箇所を探すのが容易でない場合も多々あった。今回の作業で初めての試みとして,インターネット上で利用可能な『資本論』のドイツ語版テキストを利用して検索を行ってみたところ作業時間を大幅に縮減することができた。今のところ資本論関係の文献から原語で検索が可能な唯一の手段ではないかと思われる。多大な時間とエネルギーを割いて全文入力を続けておられる赤間道夫氏(http://www.cpm.ll.ehime-u.ac.jp/AkamacHomePage/AkamacJ.html)の努力に敬意を表したい」(竹永進「ルービン論争に関する20年代ソ連の重要論文 I (ダシコフスキー,サイグーシュキン,ランジェ,ヴェルニェル)」『大東文化大学経済論集』第69号,1997年5月,57ページ)。また,同じく竹永は編訳著『ルービンと批判者たち――原典資料20年代ソ連の価値論論争――』(情況出版,1997年12月29日,asin:4915252280)においても「今回『資本論』関係で特に有益であったのは赤間道夫氏のサイト(URL略:赤間)に置かれているドイツ語のe-textであった。記して謝意を表したい。と同時に,現在のところ英語で提供されることの多い独仏その他の言語の原テキストが早期に利用可能となることが望まれる」(編訳者まえがき7ページ)と紹介してくださった。作成者としては「シシフォス労働」が報われた思いがすると同時に,過分すぎるほどの評価ではある。ただこのプロジェクトは筆者ひとりの仕事ではない。詳しくは,赤間稿「インターネットの『資本論』」参照。)

*11:念頭にあるのは,すでに紹介した Post Masters や新潮文庫100冊のCD-ROM出版である。最近では,完全デジタル版ではないが,大月書店の『CD-ROM版マルクス・エンゲルス全集』(ISBN:4272004514)もあげられよう。

*12:当時のもの。2007年2月19日補注。

*13:私見では,この種のデータベースの性格からして,本来なら研究者だけでなく広く国民全体に無料で公開されてしかるべきだ。もちろん,トラフィック増加やシステム自体の保護などの考慮しなければならない問題があるとはいえ,最初から閉鎖的でかつコンピュータに一定習熟しないと使えないデータベースのシステム自体は一考の余地がある。

*14:Economics Departments, Institutes and Research Centers in the World (EDIRC: http://edirc.repec.org/pubecon.html) 参照。

*15:赤間「インターネットにおける経済学関係データベース――経済学史研究と電子情報――」(経済学史学会第59回大会,西南学院大学,1995年10月28日)。

*16:執筆当時この学術情報センター(現国立情報学研究所学協会情報発信サービス Academic Society HomeVillage に登録されていた社会科学系学会のホームページは以下の9学会にすぎない。オフィス・オートメーション学会,日本経営システム学会,経営情報学会,経済学史学会,経済地理学会,社会政策学会,社会政策学会労働史部会,統計関連学会,日本リスクマネジメント学会。もちろん,個人ホームページから学会関連の情報を発信している例も見ることができる(たとえば経済理論学会,土地制度史学会【現在は政治経済学・経済史学会】近畿部会など)。ちなみにさらに立ち入ってみると,学術会議の部門分類による人文科学部門の第1部(文学,哲学,教育学,心理学,社会学,史学)では23学会,第2部(法律学政治学)では1学会,第3部(経済学,商学経営学)では前記9学会である。