673ウォルター・アイザックソン(井口耕二訳)『スティーブ・ジョブズ』I・II

I:書誌情報:講談社,445頁,本体価格1,900円,2011年10月24日発行

スティーブ・ジョブズ I

スティーブ・ジョブズ I

II:書誌情報:講談社,430頁,本体価格1,900円,2011年11月1日発行
スティーブ・ジョブズ II

スティーブ・ジョブズ II

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NHKスペシャル「世界を変えた男 スティーブ・ジョブズ」(NHKG:12月23日午後10時〜午後10時49分,再放送31日午後5時〜午後5時49分→http://www.nhk.or.jp/special/stevejobs/)は,この本を読んでいるときに観た。本のほうが詳しいことはいうまでもない。ジョブズやアップルにかんする神話化された言葉などの背景や文脈がよくわかる。
生まれたときに捨てられたことからなにかを作るときすべてをコントロールしようとする個性に影響を与えているという友人の証言,ティンエージャーからの禅宗を中心とする東洋思想への傾倒(鈴木俊隆老師および千野弘文老師),カリスマ性を学び導師と慕った先輩の存在(本書のキーワードのひとつ「現実歪曲ワールド」を身につける),カリグラフィーへの強い関心(アートとテクノロジーの融合の原点),コンピューティングとカウンターカルチャーの融合の体現,Macintoshの由来,機能的デザインのバウハウスイッセイミヤケなど日本人デザイナーとの接触,日本のカンバン方式の工場への応用などジョブズとアップルのエピソードが網羅されている。死を意識したジョブズの依頼を受けたとはいえ,著者の作品としてジョブズの弱さも強さも含めて叙述されているのがいい。軽い双極性障害,共感欠損症候群,自己愛性人格障害などと友人・知人のジョブズ人物評も率直だ。
パソコン,アニメ,音楽,電話,タブレットコンピュータ,デジタル出版,小売に一大変革をもたらすことになったジョブズは,本書を通じて「個性,情熱,完璧主義,悪鬼性,願望,芸術性,中傷,強迫的コントロール](II 415ページ)すべてがビジネスと製品に結びついていた。アップルII,マッキントッシュピクサーアップルストアiPodiTunesストア,iPhoneApp StoreiPadiCloudそしてアップルとジョブズなしにこれらはありえなかった。
「オープンな水平モデル」ではなく「統合された垂直モデル」(ビル・ゲイツの言葉から。II 407ページ)で成功したジョブズとアップル。この「統合された垂直モデル」(=「エンドツーエンドで統合したクローズドなシステム」)にこだわったビジネスモデルは検証されつづけられるだろう。
ティンエージャーで出会った"The Whole Earth Catalogue 全地球カタログ" 最終号裏表紙には早朝の田舎道の写真が使われ,"Stay hungry, Stay foolish."の一言があった。ジョブズの人生訓であったことはスタンフォード大学卒業式(2005年6月12日)のスピーチで一躍有名になった(IでもIIでも触れられている)――原文も翻訳も動画もネットには数え切れないほどある――。"think different"の"different"に込めたエピソードも興味深い(II 75ページ以下)。