262寺出道雄著『知の前衛たち――近代日本におけるマルクス主義者の衝撃――』

書誌情報:ミネルヴァ書房,viii+257+2頁,本体価格2,400円,2008年6月20日発行

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『山田盛太郎――マルクス主義者の知られざる世界――』(日本経済評論社,2008年1月20日[isbn:9784818819825]https://akamac.hatenablog.com/entry/20080317/1205746483)に続いて,戦前日本のマルクス主義者の軌跡を描いている。中核部分は,芸術理論の蔵原惟人,哲学の三木清,経済学の山田盛太郎・柴田敬である。彼らは「当時のソヴィエト・ロシアやヨーロッパ諸国におけるマルクス主義の理論的展開に対して,遜色がないか,あるいはそれを凌駕しさえする達成」(5ページ)と高く評価される。著者は,文学が「新たな思想を探求する先蹤者」(3ページ)として神原泰と高見順を,「(マルクス主義の)達成と,それにも増してその失敗」(6ページ)として小林秀雄中村光夫を,それぞれ取り上げ,「人が思想と同時に感情を表出する装置であった文学――あるいは芸術一般――の流れ」(iiページ)に日本マルクス主義の特徴を見いだしている。
マルクス主義がたんに思想として受容されたのではないと主張する点では,文学の一端を視野に入れることによって,戦前期日本におけるマルクス主義の衝撃を衝いている。しかも,著者は,学術や芸術にわたるほぼすべての領域にマルクス主義の知的影響が及んだことが,遅れた資本主義国家日本の特殊性と深く結びついていたことを執拗に主張している。これらが「見事に,独自に完結している」(2ページ)と言うのだ。麻疹やインフルエンザに罹ったかのようにだ。
日本マルクス主義は「失敗」「崩壊」(本書での使用例)したという。文学については大都市東京の生活者を描くことで一世を風靡しえたことを指摘している。しかし,哲学や経済学については,むしろ称揚はあっても,「失敗」「崩壊」はほとんど描かれていない。