753寺出道雄著『マルクスを巡る知と行為――ケネーから毛沢東まで――』

書誌情報:日本経済評論社,xiv+204頁,本体価格4,600円,2012年1月13日

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ケネー,スミス,マルクスの時代的課題への挑戦を解読した部分と日本・中国の共産主義運動にかかわる一次資料の紹介部分とからなっている。
著者の創見はまずケネー『経済表 範式』の解釈にある。「部分と部分との,また,部分と全体との,比例のとれた均衡ないし比例にもとづく均衡」(20ページ)を「イコノロジーの方法」(ixページ)から読み取ろうというのだ。『経済表 範式』の形態と構造は縦長の長方形と横長の長方形にまとめることができ,これは当時のいわゆる新古典主義建築と同じであり「18世紀の後半にまことにふさわしい表現の形式」(21ページ)とする。『経済表 範式』についてはイタリア式簿記やハーヴェイの血液循環論にその源があるとされており,まったく新しい解釈である。
『経済表 範式』がマルクスの再生産表式の成立に大きな役割を担ったこともよく知られている。本書ではさらにこの再生産表式を生物学展開の基礎とした門司正三(もんし・まさみ)を発掘している。門司は「乾燥物質の再生産表式」を考案し,1年生草本の再生産過程を2部門模型の設定によって捉えようとした。植物社会の遷移の説明に応用した門司を「見事」(104ページ)と評価している。日本におけるマルクス受容史の一端として注目されてしかるべきだろう。
ふたつめの部分には,慶應義塾大学所蔵「水野津太資料」による「第一次共産党」,「31年テーゼ草案」・「32年テーゼ」および「多数派」に関する聞き取り資料の紹介と毛沢東野坂参三宛書簡(1945年5月28日付)の原文紹介とが含まれている。これらは,マルクス主義における歴史の必然論と権威・異端をめぐる試行錯誤のなかに「マルクスなる人の学説や思想を真に歴史的に位置づける」(xiページ)目的をもっている。外来思想であるマルクス主義受容の「逡巡と混乱」(xiiページ)がそのまま表出している。