202中井浩一著『大学「法人化」以後――競争激化と格差の拡大――』

書誌情報:中公新書ラクレ(288),430頁,本体価格1,000円,2008年8月10日発行

大学「法人化」以後―競争激化と格差の拡大 (中公新書ラクレ)

大学「法人化」以後―競争激化と格差の拡大 (中公新書ラクレ)

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国立大学法人化以後の国立大学の対応を,産学連携,教員養成系,医学部・附属病院と医療崩壊,地方国立大学の課題について,ルポ的に叙述した大学論だ。法人化前後から明らかになった研究費の不正使用,論文捏造問題を導入部分にしている。その背景として競争的環境の拡大と競争的資金や外部資金の増加をあげ,情報公開と説明責任が厳しく求められるようになったことを指摘している。
教育と研究に加えて第3の分野として産学連携が強調されるようになった。本書では3章にわたって,産学連携の歴史,東京大学(ほかに大阪大学京都大学東京工業大学)と地方国立大学(岩手大学山形大学)の取組を紹介し,産学連携の重要性を力説している。教員養成系については,教職大学院と免許更新制にどう対応するのかに焦点をあわせ,東京大学教育学部東京学芸大学岐阜大学教育学部大阪教育大学の取組について触れている。いずれも都道府県や市の教育委員会との連携がひとつのポイントだとコメントしている。医療崩壊問題は社会保障費削減計画が根底にあるとしながらも,医学部における旧態依然とした医局制度とも関係していると指摘する。法人化によってもっとも影響を受けているのが附属病院であり,この舵取りに医学部をもつ国立大学の将来がかかっている。地方国立大学については,山形大学岐阜大学が取り上げられ,いずれも学長を先頭にした大学運営の実態を肯定的にレポートしている。
社会の教育の一環として産学連携を捉えようとする理解,教員採用者の多くが私立大学卒業者であるという実態と国立大学教員養成学部とをどう捉えるかという問題提起,附属病院を中心とした地域医療再構築の提言,入試や高校の教育内容に無関心の大学教員が多数いることの指摘,総じて「甘ったれ坊や」(=国立大学)への忌憚のない批判などは傾聴するにあたいしよう。