524カーマイン・ガロ著(井口耕二翻訳・外村仁解説)『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン――人々を惹きつける18の法則――』

書誌情報:日経BP社,405頁,本体価格1,800円,2010年7月20日発行

スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン

スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン

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もしジョブズと同じようにプレゼンを決めるなら,タートルはセントクロイ,ブルージーンズはリーバイス501,スニーカーはニューバランスでなくてはならない,てなことはないし,どうでもいい。何かが上手な人は必ず練習を積んでおり,ジョブズの場合でも1日何時間もの練習を何日も重ねるというのだ。5分間のデモに数百時間の準備をする。驚異のプレゼンは用意周到な準備にあるというのが著者の主張の基本だ。
「ストーリーを作る」,「体験を提供する」,「仕上げと練習を行う」の3つの場面――この3という数字には意味がある――に,それぞれ7,6,5,合わせて18のシーン――3の倍数にも多分意味がある――をあて,ジョブズのプレゼン術を徹底解剖している。
18のシーンそれぞれになるほどと思うチップスが散りばめられている。シーン3では「自分のサービス,製品,会社,主義主張に対する情熱がなければ,テクニックなど何の役にも立たない」(77ページ)とある。コミュニケーションの基本中の基本。シーン8ではプレゼンでよく使う箇条書きはドキュメントとスライドをごちゃまぜにした「スライデュメント」と指摘し,ジョブズのプレゼンには箇条書きがなく,簡潔さを追求しているとする。評者のプレゼンはいうまでもなく,実際に見てきた大部分はここでいうスライデュメントになるだろう。社会科学分野のプレゼンは箇条書きのオンパレードである。
ジョブズのプレゼンを分析し,認知科学脳科学の知見でシーンの効果を検証する。ジョブズのテクニックは誰にでも身につけることができるというメッセージが行間に溢れている。上達に王道はなく,「生まれながらの達人など存在しない」(321ページ)のだ。
5分のプレゼンに数百時間の準備だとすると,90分の講義用プレゼンには……。気が遠くなる計算になるが,18シーンの多くは応用可能だろう。聴衆(評者の場合の想定では聴講学生)を魅了するためにはキーノートに詰め込むだけ詰め込むだけではダメなのだ。