431キャリア形成援助科学

樫田美雄「大学院格差問題から考える社会科学系学会の新機能」(『書斎の窓』第604号,2011年5月1日発行)を読んだ。徳島大学大学院総合科学研究部地域科学専攻博士後期課程を例に,教員の学会と連動した取組を紹介している。
新しく創設された大学院博士後期課程の場合,人数が少ないことや先輩から後輩に継承する「院生常識」がない。「従来型の院生文化は育みようがない」。そこで樫田が提起するのが教員の先導でつくる「キャリア形成援助科学」だ。「院生の同質性と専門性を前提とした,自然発生的な旧来型の”院生文化”ではなく,院生の異質性と学際性を前提とした」もので,社会科学系諸学会が支える仕組みである。論文執筆支援・投稿支援,研究費獲得支援,人事公募応募支援という院生支援を組織的に支えようというわけだ。
研究者養成を個別の大学院に任せるだけでなく市民と科学をつなぐ「科学者ジャーナリズム」の観点から若手研究者を育てようという試みは「老舗」大学院にも,あるいは旧来の大学院システムにも示唆に富むものだ。