936佐藤裕・三浦美樹・青木深・一橋大学学生支援センター編著『人文・社会科学系大学院生のキャリアを切り拓く――〈研究と就職〉をつなぐ実践――』

書誌情報:大月書店,203頁,本体価格2,400円,2014年3月28日発行

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20年ほど前の人文・社会科学系での大学院進学は研究者(≒大学教員)になる道を意味していた。専門職大学院や大学院重点化によってその道は大学院博士課程修了(≒課程博士)者に限定されるようになる一方で,大学の定員削減による研究職需要減によっていわゆるポス・ドクが急増した。かたや修士課程修了者への指導は成り行きに任せがまかり通っていた。
博士課程を有する大学においても修士で就職する,あるいは博士に進学し研究者予備軍に連なる学生と複線的な進路選択とそのためのキャリア支援が不可欠になった。後者についてはすでに名古屋大学の経験を生かした,夏目・近田・中井・齋藤著『大学教員準備講座』(玉川大学出版部,2010年3月,[isbn:9784472404009])や京都大学のプログラムである,田口・出口・京都大学高等教育研究開発推進センター編著『未来の大学教員を育てる――京大文学部・プレFDの挑戦――』(勁草書房,2013年3月,[isbn:9784326250882])がある。
本書は,一橋大学の例をもとに,修士修了での就職,大学教員を目指す道,日本での就職を希望する留学生大学院生について,それぞれのキャリア形成と支援のために編まれたテキストである。
指導教員や先輩から一子相伝のように伝えられてきた研究職を得るためのノウハウや修士修了で就職する積極的意味をテキスト化して示した本書は,すくなくとも修士修了者であるがその時点での就職の経験がない現職大学教員や大学院修了者への進路指導に蓄積がない大学職員にとっても大いに参考になる。
「学部時代の就職活動の経験にもかかわらず,修士課程の院生の多くは学修・研究に対する意欲をもって進学した」(110ページ)のだ。「不勉強,不注意,未熟」はいつまでもつきまとうし,人文・社会科学系大学院への進学は不安も大きい。大学院生用キャリア支援の具体的で実践的な提示はひとり一橋大学での枠内にとどまらない一般性をもっている。