文科省は「大学・公的研究機関等におけるポストドクター等の雇用状況調査――平成18年度調査――」を公表した(http://www.nistep.go.jp/achiev/ftx/jpn/mat137j/idx137j.html)。本調査の「経済的支援を受ける博士課程在籍者」とは,「当該研究機関の大学院博士課程に在籍している者で,大学等からの経済的支援を受けている者。ここでいう経済的支援は給付型のものを指す。返済義務のある日本学生支援機構の奨学金や,財団及び大学独自の奨学金・学習奨励金のうち貸与型のものは含まない。」である。「ポストドクター等」とは「博士の学位を取得後,(1)大学等の研究機関で研究業務に従事している者であって,教授・助教授・助手等の職にない者や,(2)独立行政法人等の研究機関において研究業務に従事している者のうち,任期を付して任用されている者であり,かつ所属する研究グループのリーダー・主任研究員等でない者。(博士課程に標準修業年限以上在学し,所定の単位を修得の上退学した者(いわゆる「満期退学者」)を含む。)」である。また,「その他」は,「研究の補助的業務,技術的支援を行っている者,学士の学位・修士の学位でポストドクターに準ずる研究業務に従事している者等,上記の博士課程在籍者およびポストドクター等以外の者で任期つきの者。(教授・助教授・助手等は含まない。)」である。
評者は2年9ヶ月オーバードクターを経験した。当時評者が在籍する研究科では自助基金(オーバードクター基金)を作っていた。在学中に月々拠金し,オーバードクター2年間にわたって月々一定額を受け取るというものだ。オーバードクターの絶対数が少ない時期にはうまく機能したが,オーバードクターが増えるにつれ2年が1年になり,金額を減らすことになった。その後オーバードクターが慢性化するとともに解散することになった。そのこともあって今回の調査結果については他人事ではない。ともあれ,ポストドクター等の実態をみてみよう。報告書の結論と総括表をまとめてみた。
(1)ポストドクター等
(1-1)概況
・ポストドクター等ののべ人数は,平成17年度実績で15,496人である。(平成16年度実績は14,854人である。)
・機関種別内訳(平成17年度実績)では,大学(62%)が最も多く,次いで独立行政法人(35%)となっている。
(1-2)財源別の雇用状況
・財源別にみると,競争的資金等の外部資金(47%)による雇用が最も多く,その内訳は21世紀COEプログラム10%,戦略的創造研究推進事業8%,科学研究費補助金8%等となっている。次いで,運営費交付金等の内部資金による雇用が全体の30%,フェローシップ・国費留学生等が18%となっている。
・なお,社会保険加入者(事業者負担対象者)の占める割合が58%であることから,少なくとも6割程度のポストドクター等は常勤的に雇用されていることがうかがえる。
(1-3)分野別の雇用状況
・分野別にみると,理学(31%)および工学分野(30%)が多い。
(1-4)男女比率
・ポストドクター等に占める女性の割合は21%であるが,40歳以上では27%と高まる。
・分野別内訳では,人文・社会科学分野において女性の占める割合が36%と最も高く,次いで保健分野の32%となっている。
(1-5)外国人比率
・ポストドクター等の外国人比率は24%となっている。
・分野別内訳では,工学分野が34%と最も高く,次いで農学分野の22%となっている。
(2)経済的支援を受ける博士課程在籍者
(2-1)概況
・経済的支援を受ける博士課程在籍者ののべ人数は,平成17年度実績で36,154人である。(平成16年度実績は32,445人である。)
・機関種別内訳(平成17年度実績)では,大学が全体の98%を占めており,その中でも国立大学法人(79%)が最も多い。
(2-2)財源別の支援状況
・財源別にみると,運営費交付金等の内部資金(59%)による支援が最も多い。
・競争的資金等の外部資金による支援は全体の27%に留まっており,その主たる財源は21世紀COEプログラム(16%)である。
(2-3)分野別の支援状況
・経済的支援を受ける博士課程在籍者の分野別内訳では,工学分野(28%)が最も多く,次いで保健分野(19%)となっている。
(2-4)男女比率
・経済的支援を受ける博士課程在籍者に占める女性の割合は26%であるが,年齢が高くなるにつれて上昇する傾向にあり,40歳以上では47%まで高まる。
・分野別内訳では,人文・社会科学分野に占める女性の割合が42%と最も高く,次いで,保健分野の31%となっている。
(2-5)外国人比率
・経済的支援を受ける博士課程在籍者の外国人比率は22%となっている。
・分野別内訳では,工学分野が28%と最も高く,次いで,農学分野の26%となっている。
(2-6)支給額
・1ヶ月あたり1財源からの支給額が10万円未満のケースは,全体の74%である。
・財源別に支給額をみると,運営費交付金・その他の財源による支給は,1ヶ月あたり10万円未満のケースが89%と多く,他の財源よりも支給額が低い。
(3)比較
(3-1)分野別の雇用・支援状況
・ポストドクター等では,理学分野の占める割合が31%であり,経済的支援を受ける博士課程在籍者のうちの理学分野の占める割合(16%)に比べ15%高い。
・人文・社会科学分野の占める割合は,経済的支援を受ける博士課程在籍者(18%)よりもポストドクター等(7%)では11%低い。
(3-2) 男女比率
・ポストドクター等に占める女性の割合(21%)は,経済的支援を受ける博士課程在籍者(26%)よりもやや低い。また,女性の割合はいずれも年齢が高くなるに従って上昇する傾向にある。
・分野別では,経済的支援を受ける博士課程在籍者,ポストドクター等ともに,女性の占める割合が,人文・社会科学分野で最も高く,次いで,保健分野となっている。工学分野は,ともに最も低い。
(3-3)外国人比率
・ポストドクター等に占める外国人の割合(24%)は,経済的支援を受ける博士課程在籍者(22%)よりもやや高い。
・分野別では,経済的支援を受ける博士課程在籍者,ポストドクター等ともに工学分野で最も高く,次いで農学分野となっている。
総括表(平成17年度実績)
項目 | ポストドクター等 | 経済的支援を受ける博士課程在籍者 |
---|---|---|
概況 | a.のべ人数:15,496人 b.機関別内訳((1)大学62%,うち国立大学法人46%,(2)独立行政法人35%) | a.のべ人数:36,154人 b.機関別内訳:大学が全体の98%((1)国立大学法人79%,(2)私立大学17%) |
財源別状況 | 比率の高い財源順に,(1)競争的資金等の外部資金47%(うち21世紀COEプログラム10%,戦略的創造研究推進事業8%,科学研究費補助金8%),(2)運営費交付金等の内部資金30% | 比率の高い順に,(1)運営費交付金等の内部資金59%,競争的資金等の内部資金27%(うち21世紀COEプログラム16%,科学研究費補助金2%,戦略的創造研究推進事業1%) |
分野別状況 | 比率の高い分野順に,(1)理学31%,(2)工学30%,(3)保健15%,(4)農学10%,(5)人文・社会科学7%,(6)その他4% | 比率の高い順に,(1)工学28%,(2)保健19%,(3)人文・社会科学18%,(4)理学16%,(5)農学9%,(6)その他8% |
男女比率 | a.ポストドクター等の21%が女性 b.女性の割合は40歳以上で27%に高まる c.女性の割合が高い分野順に,(1)人文・社会科学36%,(2)保健32%,(3)農学29%,(4)保健19%,(5)その他19%,(6)人文・社会科学13% | a.経済的支援を受ける博士課程在籍者の24%が女性 b.年齢とともに女性の割合は上昇(40歳以上では47%) c.女性の割合が高い分野順に,(1)人文・社会科学42%,(2)その他32%,(3)保健31%,(4)農学29%,(5)理学18%,(6)工学13% |
外国人比率 | a.ポストドクター等の24%が外国人 b.外国人比率が高い分野順に,(1)工学34%,(2)農学22%,(3)理学20%,(4)保健19%,(5)その他19%,(6)人文・社会科学13% | a.経済的支援を受ける博士課程在籍者の22%が外国人 b.外国人比率が高い順に,(1)工学28%,(2)農学26%,(3)人文・社会科学23%,(4)その他21%,(5)保健18% |