115水月昭道著『高学歴ワーキングプア――「フリーター生産工場」としての大学院――』

書誌情報:光文社新書(322),217頁,本体価格700円,2007年10月20日

高学歴ワーキングプア  「フリーター生産工場」としての大学院 (光文社新書)

高学歴ワーキングプア 「フリーター生産工場」としての大学院 (光文社新書)

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大学院重点化政策によって大量に生み出された「博士」はほぼ50%の失業率だ。本書が力説するように,好まざる状況に置かれることになった「博士」こそ最大の被害者である。大学での非常勤として大学教育を担わせている大学の現状も問題のひとつだ。本書でこれらの論点を執拗に追及しているのはまったく正しいと思う。本書の最大の功績は,「博士」をいわば「官製ワーキングプア」(本書では使っていない)としてあぶり出し,事態の深刻さを告発したことにある。現在なお「博士」が毎年生み出される構造と労働市場の整備こそ急を要するといえる。
著者が描く現職教員の姿についてはそういう教員もいるとしておく。若い「博士」が査読論文で却下されるという話も,査読者が「博士」であるかどうかが問題なのではなく,「博士」の投稿論文が却下されずに一発で通ると考えるのがおかしい。却下あるいは修正を求められるのが普通だからだ。また,COEやGPを獲得するためだけの体制をとる大学は,数年後そのツケを払うことになるだろう。
「博士」に多様な活躍の場をもとめようという方向性は評者も同意できる。「博士」は高等教育機関で活躍の場が与えられてしかるべきだという常識こそ――ひとりの大学に関係する人間として,ひとりでも多くの「博士」の採用に努力したいが――一度疑ってかかることがらでもあるように思う。論文博士は研究の集大成の意味を持った。課程博士は研究のとば口についたことを意味し,その後の職が保証されると考えるのは,いずれにしても正しくない。