020大嶽秀夫著『新左翼の遺産――ニューレフトからポストモダンへ――』

書誌情報:東京大学出版会,v+285頁,本体価格3,200円,2007年3月5日

新左翼の遺産―ニューレフトからポストモダンへ

新左翼の遺産―ニューレフトからポストモダンへ

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ポストモダンの時代に,なぜいま新左翼なのか。著者によれば,新左翼ポストモダンに共通する認識がある。ひとつは,従来の社会認識における対立図式(国家対個人,政治権力対人権・自由など)からの発想の転換をもたらしたこと。つまり,新左翼は「社会に拡散し,可視性の低い,にもかかわらず社会生活を決定的に規定している『社会権力』」(1ページ)への認識転換をもたらしたからである。ふたつに,民族的マイノリティ,同性愛者,女性(非特権者)などが「近代的市民」=「普通の人々」によって差別,排除,あるいは搾取されていることへの認識に市民権を与えたこと。既成左翼の否定から出発した新左翼は,近代主義に対する最も厳しい批判者ともなることによって,ポストモダンの本格的登場を準備したことになる。
ブントとその後継者である全共闘がその中核だとする。本書は,ブントと全共闘という前期新左翼を対象に,既成左翼との対峙とその克服を描くことと同時に,戦後直後から影響を持った近代主義をも批判しえたことを叙述する。ブントは60年安保闘争後に瓦解してしまう。だが,ブントは,反権威主義,享楽性,日本資本主義の復活と近代化の認識および労働者至上主義の否定を提起することによってポストモダンを準備したという。もちろん著者は新左翼ポストモダンの連続性だけでなく,非連続性も主張している。貧困と戦争の恐怖,レーニン的組織論,古典の知的権威への知識人的脆弱性である。
新左翼運動を学生運動の次元で捉えるだけでなく,政治学の対象にしつつポストモダン誕生を説くこれまでにない問題提起だ。後期新左翼内ゲバとテロに傾斜していった負の遺産も指摘している。後期新左翼の時代を大学時代に経験した評者からみると,既成左翼への全面的否定と前期新左翼への過大評価が目立つように思う。それでも,新左翼への学問的評価の試みは大きな問題提起であることは間違いない。