405辻村英之著『おいしいコーヒーの経済論――「キリマンジャロ」の苦い現実――』

書誌情報:太田出版,205+v頁,本体価格1,900円,2009年6月15日発行

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前著『コーヒーと南北問題』(日本経済評論社,2004年,[isbn:9784818815704])は積ん読のまま,こちらを最初に読む。さいわい,本書の前半部分は,前著の分析結果の要点をまとめてくれている。前著から注目していたのは,コーヒーなかでもキリマンジャロの主要産出国であるタンザニアの生産と流通,日本のコーヒー消費構造と価格形成システムを扱い,フードシステム分析を試みていることだった。あわせて,コーヒー生産農家の貧困緩和をめざすフェア・トレード論にも興味をもっていた。
コーヒーの解説とタンザニアルカニ村のコーヒー生産農家の日々から始まる描写は通俗的なコーヒー論かと見紛うが,生産国タンザニアから消費国日本までのコーヒー・グローバル・フードシステムの展開と生産者を不利にする現在のコーヒー価格形成の不公正さ(ニューヨーク先物価格による基準価格,多国籍企業による買いたたき,生産者価格と消費者価格との格差)の現状把握は総じて的確だと思う。
タンザニアではじまった政府の生産者支援と小農民・協同組合による自助努力の動向(著者は「ポスト構造調整」とよんでいる)をふまえ,日本商社による高品質・高価格のコーヒー豆買い占めを指摘し,フェア・トレードの必要性の強調にいたる論述は「キリマンジャロの苦い現実」に負うわれわれへの警鐘である。
フェア・トレードには,大手企業による認証ラベル利用型や生協・NGOが立ち上げたオルター・トレード・ジャパン(ATJ)による認証ラベル未利用型があり,さらにこの中間に多様な目的をもつフェア・トレードがあるという。いずれにしても,フェア・トレードによる生産者支援が実現するためには,多少は高価であっても積極的に購入する日本の消費者の増加が欠かせない。
ルカニ村と日本の消費者との提携(「産消提携型」(204ページ))によるフェア・トレードの実践は,草の根の「コーヒーの香味を取り戻」(199ページ)し,南北問題解消への小さな,しかし着実な一歩であろう。