076アントニー・ワイルド著三角和代訳『コーヒーの真実――世界中を虜にした嗜好品の歴史と現在――』

書誌情報:白揚社,323頁,本体価格3,500円,2007年5月20日

コーヒーの真実―世界中を虜にした嗜好品の歴史と現在

コーヒーの真実―世界中を虜にした嗜好品の歴史と現在

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コーヒーは石油とならぶ有数の貿易品目だ。コーヒーの買い付け業務に従事した経験と植民地主義研究とを結びつけ,コーヒーをめぐる「暗黒の歴史」(原書のタイトル:Coffee: A Dark History)を描いた好著。コーヒーは16世紀に歴史の表舞台に登場した。著者は,コーヒー発見の歴史に立ち戻り,公然の帝国主義列強による争奪戦から現代における多国籍企業による「植民地的」収奪,さらに対抗運動としてのフェアトレードにいたるまで,琥珀色の液体をめぐる歴史と現在までを鳥瞰している。
かつてのコーヒー貿易の中心地イエメンのモカ,コーヒーの要衝だったセントヘレナボルテールゲーテやナポレオンやベートーベンらのコーヒーに関するエピソード,コーヒー大国ブラジルにいたる経緯,スターバックスエスプレッソの急伸,新たな参入国ベトナムのコーヒー事情などコーヒー文化の底流を貫く産業としてのコーヒーが成り立つ所以が淡々と叙述される。
「十八世紀の功利主義者ジェレミーベンサムは,有名な格言『最大多数の最大幸福』を,オックスフォードのコーヒー・ハウスの古い冊子に見つけたと言われている」(97ページ)など貴重な断片も含まれる。本書には一切の註がない。「暗黒の歴史に客観的な証明をピンポイントで散りばめてしまったら,それは全然暗黒ではなく」(はじめに)なるからだという。確認したい叙述がいくつかあるだけに,画竜点睛を欠くとしておこう。