230FLO・IFAT・NEWS!・EFTA編(フェアトレード・リソースセンター訳北澤肯監訳)『これでわかるフェアトレードハンドブック――世界を幸せにするしくみ――』

書誌情報:合同出版,263頁,本体価格1,600円,2008年6月30日発行

これでわかるフェアトレードハンドブック―世界を幸せにするしくみ

これでわかるフェアトレードハンドブック―世界を幸せにするしくみ

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表紙の折りと本文の最初に紹介されている言葉が目に飛び込んできた。

「買い物は,政治的活動なんだ。お金を払うということは,票を投じることなんだから」(ボノ/U2

制度化された経済学の前提は消費者主権である。しかし,現実はちがう。市場を通じた経済活動における主権者は生産者にあるかというとそう簡単ではない。製造元がスェットショップ(搾取工場)であったり,取引業者が圧倒的に力をもって市場価格が設定されていたりする。フェアトレードは,①生産と取引を通じて,途上国の零細な生産者と貧しい労働者に発展の機会を提供すること,②国際的な貿易制度と企業活動に公正さをもとめ,持続可能な発展に貢献することを目的としている。60年ほど前に,ある団体がプエルトリコの刺繍製品の買い付けたことに起源があるとされる。コーヒー,バナナ,紅茶などの典型的なフェアトレード製品は各市場の5%前後を占めるまでになっている。
本書は,ヨーロッパのフェアトレード運動を牽引する,FLO(国際フェアトレード認証機構),IFAT(国際フェアトレード連盟),NEWS!(ヨーロッパ・ワールドショップ・ネットワーク),EFTA(ヨーロッパ・フェアトレード連盟)の編集による,フェアトレードの成功と挑戦をまとめたものだ。フェアトレードの紹介や一般的な事項と具体的なケーススタディ(手工芸品,コーヒー,米,綿・綿製品)からなっている。
一次産品の価格は低いレベルで設定されるべきでなく生活状況をもとにした尺度で決定されるべきだとケインズも主張したが,一次産品の価格低下による打撃をもっとも受けるのは農村地域の貧困層(=発展途上国の大多数の人びと)である。ナイキはスェットショップに製造を委託していたことで猛烈な抗議を受け,行動規範の策定と製造工程の予告なしモニタリングを受け入れたことがある。フェアトレードは生産,流通,消費にいたる公正な取引の実現から自然資源の収奪によって成り立つ生産体制,ひいては自国内の労働条件や雇用確保の問題までも包括することになる。
ネスレマクドナルド,スタバーはフェアトレード認証コーヒーを扱っているし,日本では西友,イオン,無印良品などがすでにフェアトレード「市場」に参入している。企業のあらたな市場開拓,あるいは自国農産物の保護と両立しえるのかなどフェアトレードの本格的挑戦がようやく始まった。と同時に,フェアトレードをあらためて位置づけなおしてみると,経済学で前提されている消費者主権への実現の試みとみることができるのではないかと評者は考えている。