174クリスタ・クリューガー著(徳永恂・加藤精司・八木橋貢訳)『マックス・ウェーバーと妻マリアンネ――結婚生活の光と影――』

書誌情報:新曜社,322頁,本体価格:3,400円,2007年12月25日

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本書は,ウェーバーの伝記的事実についての新資料を駆使し,ウェーバーを妻マリアンネの関係,さらにはウェーバーに大きな影響を与えた3人の女性,プロテスタンティズムの権化としての母親ヘレーネ,女権主義活動家としての妻マリアンネ,自由恋愛運動実践家にして「愛人」としてのエルゼとの関係から再評価しようとしている。
マリアンネによる夫の自伝『マックス・ウェーバー』(大久保和郎訳,みすず書房)は,ウェーバーを襲った神経症について詳しくは触れていない。ミッツマン『鉄の檻』(安藤英治訳,創文社)は,オイディプス・コンプレックス((1)同性の親への増悪,(2)異性の親への愛着,(3)父を増悪する反面,その権威を認めざるをえない両面感情,(4)権威を認めている者を増悪することから生まれる罪の意識)の仮説によってウェーバーの個人史を解明しようとするものだった。
本書は,ウェーバー全集の編集過程で知られるようになった女性関係やエロス的関心に注目し,倫理的価値判断について留保しつつ,ウェーバーと3人の女性(中心は妻マリアンネ)との関係に注目した「心理小説的」(徳永「あとがきに代えて」)物語である。ウェーバー最晩年の講演(「職業としての政治」と「職業としての学問」)に示される使命(ベルーフ)としての「政治」と「学問」のみならず,ウェーバーにとってはいまひとつ「エロス」もベルーフだったのかもしれない。
タイトルからするとウェーバーの私生活暴露もののようにみえる。ウェーバーをして知的巨人として英雄視する見方への異論であることでは,ある既刊本(https://akamac.hatenablog.com/entry/20071123/1195804826)と同一の問題意識といっていい。しかし,本書の読後感は――西欧的素養を前提としたレトリックが張りめぐらされ読みにくい本だった――意外と爽快だ。ウェーバーという人間の苦悩への共感と知的営為の差だろうか。