577ケインズ著(山岡洋一訳)『ケインズ説得論集』

書誌情報:日本経済新聞出版社,264頁,本体価格1,900円,2010年4月20日発行

ケインズ 説得論集

ケインズ 説得論集

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救仁郷繁訳(ぺりかん社,1969年),宮崎義一訳(『ケインズ全集』第9巻,東洋経済新報社,1981年)に続く新訳である。原著は1931年に刊行され,ケインズの時論(1919年11月から1931年9月まで,ただし「呪うべき黄金欲」は『通貨論』(1930年)の一部)を収めた論文集だった。
新訳は「二十一世紀の読者にとって,そのすべてが興味深いとはかぎらない」(「訳者あとがき」)として訳者によって取捨選択,追加されている。

  • 原著第1編「講和条約」:未収録
  • 原著第2編「インフレーションとデフレーション」のうち「フランス・フラン」:未収録
  • 原著第3編「金本位制への復帰」のうち「銀行頭取の演説」:未収録
  • 原著第4編「政治」の「自由放任の終わり」は「IV」と「V」だけが収録されていたが,パンフレット全体を訳出
  • 原著第4編「政治」の「ロシア管見」「わたしは自由党員か」「自由主義労働党」:未収録
  • 原著第5編「未来」のうち「クリソルド」:未収録
  • 『繁栄への道』(アメリカ版,1933年):全文収録

もともと1930年代の時論集という性格を強く持っていた原著に,デフレ問題へのアプローチという観点から編集しなおした新訳である。救仁郷訳が40年以上前の訳書,宮崎訳が全集版であり,いずれも手軽に入手しにくかった。新訳『説得論集』は原著『説得論集』とは異なる意味をもつ著作となった。
「自由放任の終わり」(1924年のオックスフォード大学シドニー・ボール講義と1926年のベルリン大学講義をもとにしている)は全訳によってケインズ経済思想史理解を端的に知る部分であり,新訳らしさが詰まっているところだ。