578酒井潔・佐々木能章編『ライプニッツを学ぶ人のために』

書誌情報:世界思想社,viii+262頁,本体価格2,000円,2009年12月10日発行

ライプニッツを学ぶ人のために

ライプニッツを学ぶ人のために

  • 作者:酒井 潔
  • 発売日: 2009/12/02
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

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かつてマルクスの「自由,平等,所有そしてベンサム」を調べたとき,新MEGA版の注釈にライプニッツの予定調和論への参照があった。それ以来ライプニッツはつねに意識する人物となった。『ライプニッツ著作集』全10巻(工作社,1988-89年)を古書店で買った。この全集は一カ国語で読める世界最大の著作集とのことで,第35回日本語訳出版文化賞を受賞したのだった。
「17世紀の万能人」ライプニッツに興味を持つ人への誘うのが本書だ。論理学,普遍記号法,数学,自然学・自然哲学,生命論,意識論・認識論,倫理学・社会哲学,形而上学,美学,中国学にわたるライプニッツ思想の概説と資料編(主要著作・書簡解題,テクスト,小辞典,略年譜)からなっている。
日本のライプニッツ研究者はごく少数とはいえ――「絶滅危惧種」(「あとがき」241ページ)――,ライプニッツの万能さへの敬意は分野を問わない広さをもっている。ドイツの国家事業として1900年にはじまった全集(Sämtliche Schriften und Briefe)は,2009年8月現在で45巻,2048年完結で全108巻という気の遠くなるような計画だ(→http://www.leibniz-edition.de)。
アカデミズムの世界では一度も職に就かず,宮廷政治家(とくにハノーファー)として家史編纂,図書館運営,鉱山開発,計算機の制作の傍らに紡がれたライプニッツの思索は,モナドと予定調和だけではないことをあらためて痛感した。ライプニッツには未完の正義論=『正義の共通概念についての考察』がある。これによれば,「他人を害するな」という相互主義,「各人のものは各人に」という配分的正義,「正直に,正しく,愛情をもって生きよ」という普遍的正義を考えていたという。善意に基礎をおいて正義論ということになる。
2009年には「日本ライプニッツ協会」(→http://www-cc.gakushuin.ac.jp/~19950491/leibniz/)が設立されていることも本書で知った。「わが国初のライプニッツ研究のガイドブック」は座右に置いて損はない。