484小松正之著『世界クジラ戦争』,小泉武夫著『鯨(げい)は国を助く』

(1)書誌情報:PHP研究所,229頁,本体価格1,700円,2010年2月12日発行
(2)書誌情報:小学館,235頁,本体価格1,300円,2010年4月6日発行

世界クジラ戦争

世界クジラ戦争

鯨は国を助く

鯨は国を助く

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民主党の「政策集INDEX2009」の農林水産項には「捕鯨対策」があり,「十分な資源量が確認された種の鯨類については,適切な管理を行うことを条件に,商業捕鯨の再開を図ります。(改行)なお,調査捕鯨国際捕鯨委員会(IWC)条約第8条に基づく正当な権利です。」と謳われている(→http://www.dpj.or.jp/policy/manifesto/seisaku2009/15.html#%95%DF%8C~%91%CE%8D%F4http://www1.dpj.or.jp/policy/manifesto/seisaku2009/index.html)。政権党になった政党のマニフェストとしては無視できない。折しも,商業捕鯨再開のための「科学的調査」のひとつとして北西太平洋において今年度の捕獲調査のプレスリリースが公表となった(「2010年度第二期北西太平洋鯨類捕獲調査(JARPN II) ――沖合調査日新丸調査船団の出港について――」→http://www.icrwhale.org/100608ReleaseJp.htm)。
調査捕鯨を実施している共同船舶には,日本鯨類研究所を経由して数億円の国庫補助金が出る。商業捕鯨は1988年に事実上放棄したから調査捕鯨名目でしか捕鯨できないことになっている。この調査捕鯨自体が「科学」を騙った商業捕鯨と批判されている。民主党の公約は,調査捕鯨はあくまで調査のための捕鯨という前提に立ち,かつての商業捕鯨の再開を謳うという踏み込んだ対策になっている。
さて,(1)は商業捕鯨の再開が国の不変の方針という立場で,日本の国際交渉や捕鯨外交のあり方への問題提起だ。南氷洋捕鯨,北洋サケ・マス漁業,遠洋マグロ延縄(はえなわ)漁業の交渉に焦点を当てており,官僚頼みの交渉裏面史を描いている。(2)は鯨食文化論を前面に出した捕鯨肯定から反捕鯨の「独善」を衝くという構成になっている。
捕鯨・反捕鯨ナショナリズムに転化しつつある現在,あらためて調査捕鯨の意味と沿岸捕鯨の歴史を考えてみる必要がある。

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    • 『科学』第77巻第5号(2007年5月号)特集「《競争》にさらされる大学――法人化後の評価」→https://akamac.hatenablog.com/entry/20070616/1181986894
      • 《一言自省録》ここでもポスト・法人化が議論されるようになった。