646石井敦編著『解体新書「捕鯨論争」』

書誌情報:新評論,xx+321頁,本体価格3,000円,2011年5月15日発行

解体新書「捕鯨論争」

解体新書「捕鯨論争」

  • 発売日: 2011/05/13
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

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捕鯨問題の問題設定からはじめ,捕鯨をめぐる国際政治の再検討,調査捕鯨の評価,鯨食文化論を中心にしたマスコミ報道の検証,グリーンピースの功罪,日本の捕鯨外交と商業捕鯨再開問題,と捕鯨問題を客観的にみようと姿勢がいい。「批判作業をとおして捕鯨問題におけるタテマエとホンネを一致させる」(「はじめに」)試みであり,捕鯨と反捕鯨の論争解体に寄与するだろう。
「クジラ横丁」(→http://www.e-kujira.or.jp/)には,「鯨肉は合法的な食品! 日本の調査捕鯨は,世界の科学者から高く評価されています!」とあり,「昔から愛される,ヘルシー食材,クジラはおししい!」の文字が躍っている。下の方には,調査捕鯨を委託されている水産省管轄財団法人「日本鯨類研究所」のバナーがある。
この本を読めば,「クジラ横丁」とは反対に,調査捕鯨が高く評価されておらず,鯨食が昔から愛されたわけではないことがわかる。前者についてはすでに多くの非致死的調査方法によるクジラ研究がおこなわれていること,後者については敗戦直後の畜肉不足を補う鯨食によって醸成されたもの,と論じている。
日本政府が IWC においてモラトリアム解除=商業捕鯨再開を行動しているのかどうか。「水産庁を中心とした捕鯨サークルの真の目的は調査捕鯨の継続」(282ページ)であり,唯一可能な折衷案は「調査捕鯨や鯨肉の国際貿易を一切禁じる代わりに,沿岸捕鯨を科学的管理のもとで容認する」(283ページ)。評者の落としどころもここだ。
調査捕鯨商業捕鯨再開につながらない。日本の捕鯨政策の転換がもとめられているのはまちがいない。