958若杉冽著『原発ホワイトアウト』

書誌情報:講談社,319頁,本体価格1,600円,2013年9月11日発行

原発ホワイトアウト

原発ホワイトアウト

  • 作者:若杉 冽
  • 発売日: 2013/09/11
  • メディア: 単行本

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現役キャリア官僚によるかぎりなくノンフィクションに近いフィクションである。原発規制の埒外に置かれている送電塔が某国のスパイによって爆破され,関東電力新崎原発メルトダウンを起こすまでを描く。官僚や電力会社,政治家の本音と表舞台を登場人物に語らせている。落選議員回りの章には,「政治家と経済界とが距離を保っているように見せつつ,実態としては,個別の会社と保守党とが,より密接に,より不透明な形で結びつきを強めていく」(61ページ)とある。
日本電力連盟常務理事の小島には,政党助成金が表の法律上のシステムであり,総括原価方式によって生み出される超過利潤は「裏の集金・献金システム」(67ページ)と語らせる。また,関東電力の新卒採用には女性枠,政治家斡旋案件枠,官庁斡旋枠,内部巻部斡旋枠,地域対策枠が9割を占め,自由競争採用枠が1割しかないことにも触れる。
保守党の有力議員赤沢に,「電力システム改革は,原子力再稼働のため,世間的に示すポーズ」(134-5ページ)に語らせ,最近ニュースになった小売の自由化についての本音を引き出していた。
原発再稼働に慎重な発言を繰り返す新崎県知事伊豆田を引きずり落とすためのマスコミ・検察・政権の連みや原子力ムラの実態,さらにはデモ崩しなど原発再稼働に向けての蠢きも詳しい。
無防備のままの送電塔が一度事故が起これば原発メルトダウンに至らせるという現職官僚による警鐘と読めば,剥がされるかもしれない筆名による勇気ある告発となる。