658小出裕章著『原発はいらない』

書誌情報:幻冬舎ルネッサンス新書(044),238頁,本体価格838円,2011年7月15日発行

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一貫して反原発から原発全廃を主張してきた原子力研究者(「熊取6人組」のひとり)の発言は重い。事故直後からメルトダウンの可能性を指摘していたし,最悪の「ブラックアウト」が発生していた。政府・東電の情報隠しと不手際は明らかである。どんな状況であれ注水し続けなければならない状況と日々放射性物質汚染の発生と闘っているの末端労働者への視線は,原発に未来はないという著者の主張を説得的にしているし,同時に緊急対処の必要性を訴えている。
福島第一原発は自然災害などではなく「人災」であり,「犯罪」ですらあり,安全な原発などないのだ。原発,そして核燃料サイクル計画の破綻,プルサーマル発電の破局的事故の可能性,正式稼働に至っていない六ヶ所再処理工場。かりに原発を即刻廃絶したとしても水力・火力を発電所を必要に応じて稼働させれば当面の電力はまかなえる。当面化石燃料に助けてもらって環境破壊をしない新エネルギーの開発をする,はよくわかる。新エネルギーにこだわり国土上を太陽パネルだれけになればその土地に生息する生物はどうなるのか。冷静な指摘だ。
福島の第一次産業を崩壊させず,さらに子どもたちを被曝から守る(子どものほうが大人より放射線感受性がはるかに高いから)という著者の願いは評者でも実践できる。「(放射線感受性が鈍い)大人たちが福島で生産される放射能で汚染された食品を積極的に食べ,子どもたちには汚染の極力少ない食料を回す」(233ページ)こと。われわれ大人がこれくらいの気持ちでなければ福島の第一次産業は壊滅してしまう。いい年をしたおじさん,おばさんがたった数日の福島滞在を忌避するなどは茶番なのだ。